1)定義

貸与権とは、著作物をその複製物の貸与により公衆に提供する権利のことをいいます(26条の3)。ただし、映画の著作物頒布権で処理されるため除きます。

2)趣旨

1980(昭和55)年に貸レコード業が誕生してからというもの、レコードを買うのではなく、レコードを借りて、それをテープにダビング(複製)して聴くというスタイルが普及しました。結果、貸レコード業は隆盛したのですが、レコードの売り上げは低迷しました。

そこで、貸レコード業の隆盛に対処し、レコードを複製した対価を権利者に還流させるために、1984(昭和59)年に貸与権が新設されました。ここでいう「権利者」には、著作権者のほか、歌手などの実演家(95条の3)、レコード製作者(97条の3)が含まれます。

本来、私的複製(30条、6-2-1.で後述)は著作権者に無断で自由に行うことができ、貸与権は及ばないのですが、レコード産業に与える影響に鑑み、貸与権が新設されたのです。その意味で、立法の経緯からして貸与権は、複製権の補完という意味合いが強いものでした。

話を単純化して説明しますと、たとえば貸レコード店が1枚のレコードを買い、それを100人に貸し出したとします。この100人はレコードを借りることで、レコードを買うよりも安価に音楽を聴くことができ、しかもテープにダビングすれば、音質は劣化するもののレコードを買う必要がありません。
 そうすると、権利者は著作物の利用価値に応じた対価を得ていないことになります。なぜなら、100人が著作物を利用しているのに、権利者には1人分の利用に応じた対価しか還元されていないからです。そこで、貸与権を認めて権利者を保護するにいたったのです。

3)内容

たとえば、レンタル店が著作権者などの許諾を得ずにCDやDVD、ゲームソフト、本などを有料で貸し出すことは、貸与権の侵害にあたります。TSUTAYAやGEOが有料でCDを貸し出すことができているのは、JASRACCDV-JRIAJなどの著作権管理団体に対して、金銭を支払っているからです。

貸与権は、譲渡権と異なり原作品は対象ではなく、また消尽しないという特徴があります。さらに譲渡権と同様、公衆への貸与を対象としており、特定少数への貸与については権利が及びません(5-3-2.1)参照)。したがって、友人に音楽CDを貸すなどの行為は、公衆に該当しないため問題となりません。

書籍・雑誌の貸本にも貸与権は及びます。2007年11月時点で、TSUTAYAやGEOの一部の店舗においてコミックのレンタルがスタートしていますが、これはRRAC(レラック)に著作権使用料を支払っているため実施できているのです。

4)貸与権の制限

非営利で行う頒布については貸与権が及びませんので(38条4項)、図書館は著作権者の許諾なく図書を貸出すことができます(6-2-2.3)で後述)。