1)出版権の定義

著作権者は、その著作物を文書・図画として出版することを引き受ける者に対し、出版権を設定することができます(79条)。

出版権とは、@頒布の目的をもって、著作物をA原作のまま、B印刷その他の機械的または化学的方法により、C文書または図画としてD複製する権利のことをいいます(80条1項)。

複製したものを公衆に譲渡(販売)するのが出版という形態です。出版権を設定するのが複製権者(作家)で、出版権の設定を受けるのが出版権者(出版社)です。

2)出版権の性質・特徴

出版権は排他的な権利であり、物権的効力を有するため、出版権の設定を受けた者は第三者に対抗できます(具体的な意味につき8-2.3)参照)。ただし、登録が必要です(88条)。

どういうことかといいますと、出版社は複製権者との契約で、79条1項の所定の行為につき排他的許諾を得ることができます(排他的許諾の意味につき8-3.3)参照)。しかし、許諾契約だと、複製権者が他の出版社Bに著作物を出版させてしまった場合、当初許諾を得ていた出版社Aは出版社Bに対抗できません(8-3.3)参照)。

そこで、出版社Aは複製権者から出版権の設定を受けて、排他的な権利である出版権を登録しておくのです。こうしておけば、出版社Aは出版社Bに対して損害賠償請求や出版の差止請求が可能となります。

出版権が設定されると、複製権者と出版権者との両者が排他的独占権を行使できることになります。よって、その出版権の設定と抵触する範囲内で、複製権者は他人に対して複製の許諾ができなくなり、他方で出版権者も同様に、複製の許諾ができなくなります(両すくみの関係)。

8-3.3)で、許諾契約により著作物の利用を認められた者であっても、第三者に対抗できないと述べました。しかし、出版権の設定を受ければ、それを登録していさえすれば第三者に対して対抗できるのです。ここに出版社が出版権の設定を受けるメリットがあります。他方、複製権者としても、自分のところに複製権を留めておいたまま著作物を出版させることができるので、おたがいに都合がよいのです。

3)出版権の内容

(1)80条1項

上記1)@の要件により頒布目的のない複製は出版とはいえず、また、AおよびDの要件により翻訳して出版する行為などが、Bの要件により手書きでの複製がそれぞれ除外されます。そしてCの要件により、文書または図画ではない映画フィルムや音楽CDが除外されることになります

たとえば、複製権者は出版権者の許諾を得ることなく、出版権が設定されている小説を映画化することができます。また、原作のまま複製する行為ではないので、出版権が設定されている論文集の一論文を他の雑誌に掲載することも、自由に行うことができます。

(2)80条2項

出版権の存続期間中に当該著作物の著作者が死亡したとき、または出版権の設定後、最初の出版があった日から3年を経過したときは、複製権者は当該著作物を全集その他の編集物(その著作者の著作物のみを編集したものに限る)に収録して複製することができます(80条2項)。

著作者の複数の著作物のうち、いずれかに出版権が設定されていた場合、同一著作者による編集物の編纂(へんさん)が困難になる可能性があります。これでは書籍に対する公衆の需要にこたえられないため、出版権の範囲外としたのです(田村・概説496頁)。

(3)80条3項

出版権者は、その出版権の目的である著作物の複製を許諾することができません(80条3項)。なぜなら、出版権の設定は複製権者と出版権者との信頼関係の上に成り立つものであるからです。

4)出版権者の義務

出版権者は、原稿などの引渡しを受けてから6か月以内に出版する義務を負います(81条1号)。出版権者がこの義務に違反した場合は、複製権者は出版権者に通知して出版権を消滅させることができます(84条1項)。ただし、設定行為で期間を変更することが可能です。

また、出版権者は著作物を慣行に従い、継続して出版しなくてはいけません(81条2号)。出版権者がこの義務に違反した場合、複製権者は所定の要件を満たすことで出版権を消滅させることができます(84条2項)。

出版権者は、出版権が設定されている著作物を増刷したり改訂版を出版するなどして複製する場合は、そのつど事前に、著作者に通知しなくてはいけません(82条2項)。著作者の修正・増減権(82条1項)の行使の機会を確保するためです。

5)出版権の存続期間

出版権の存続期間は、当事者間の契約において定めるところによります(83条1項)。出版権の存続間につき取り決めていない場合は、出版権設定後最初の出版があった日から3年を経過した日において消滅します(同条2項)。無期限の出版権が認められるかについては争いがあります。