前節(2-1.)では著作物といえるための要件を検討しました。しかし、著作物であっても、そのすべてが著作権法によって保護されるわけではないのです。

1)日本の著作権法により保護される著作物

(1)総説

わが国の著作権法によって保護を受ける著作物は、以下のいずれかです(6条)。

  1. 日本国民が創作した著作物(1号)
  2. 最初に日本国内で発行された著作物(外国で最初に発行されたが、発行後30日以内に国内で発行されたものを含む)(2号)
  3. そのほか、条約によりわが国が保護の義務を負う著作物(3号)

(2)具体例

たとえば、日本人が作成した著作物は、それが国内で公表した場合はもちろん、国外で公表したものであっても、わが国の著作権法の適用を受けます(6条1号、国籍主義)。また、外国人の作成した著作物が最初に日本で公表された場合も同様です(6条2号、発行地主義)。

6条3号にいう「条約」というのは、ベルヌ条約(パリ改正条約)、万国著作権条約、TRIPs協定、WIPO著作権条約などのことをさしています。これらの条約は、国際的な観点から著作物をどのように保護していくのかについて定めているのです。

たとえば、ベルヌ条約に加盟しているABCの3国があったとします。このとき、A国国民の著作物はBC両国でも保護されますし(国籍主義、ベルヌ条約3条(1)(a))、ベルヌ条約に加盟していないD国国民が著作物をA国国内で最初に発行した場合は、A国国内のほかBC両国内でも同様に保護されるわけです(発行地主義、同条約3条(1)(b))。

さらに、A国の著作権の保護期間が30年で、B国のそれが50年だった場合、B国はA国国民の著作物を30年保護すればよいというようなことを定めています(相互主義、同条約7条(8))。

このように、外国人の著作物をどのように保護するのか(保護しないのか)、ということについて条約で定めているわけです。ただ、これはきわめて複雑な関係になるので、あまり深入りする必要はありません。

上記(1)で述べた6条1〜3号に該当しない著作物については、日本では自由に利用できることになります。この点、北朝鮮は2003年にベルヌ条約に加盟しているため、同条3号により日本でも同国の著作物を保護しなければいけないようにみえます。しかし、日本は北朝鮮を国として承認しておらず権利義務関係が生じていないため、同国の著作物を保護する必要がない、つまり日本においては北朝鮮の著作物を自由利用できるというのが判例の見解です(東京地判平成19.12.14)。

2)権利の目的とならない著作物

上記1)に該当する著作物であっても、国民の権利義務に関係するもので、広く周知徹底して利用されるべきものについては、著作権の目的とならないようにする必要があります。そこで、以下の著作物については著作権法による保護を受けません(13条)。

  1. 憲法、その他の法令(1号)
  2. 国や地方公共団体の機関、独立行政法人が発する告示、訓令、通達その他これらに類するもの(2号)
  3. 裁判所の判決、決定、命令、審判のほか、行政庁の裁決、決定で裁判に準ずる手続により行われるもの(3号)
  4. 前3号の翻訳物および編集物で、国もしくは地方公共団体の機関、または独立行政法人が作成するもの(4号)

13条の趣旨から、1号の「その他の法令」には法律だけではなく、条約、政令、条例、裁判所規則も含まれます。しかし、白書や報告書は2号に該当せず、通常の著作物と同様に扱われます(東京高判昭和57.4.22「龍渓書舎復刻版」事件)。ただし、後述する32条2項により自由利用できる場合があります。


 裁判所の判決文については、これを自由に利用することができます。また、判決文に添付されている図面や写真については、13条3号により、判決として利用される限りにおいて複製、翻案ができると解されています(田村・概説257〜258頁)。