1)定義

同一性保持権とは、著作物やその題号(タイトル)について、著作者の意に反して、これらの改変を受けない権利のことをいいます(20条1項)。

2)趣旨

同一性保持権の趣旨は、著作物が著作者の心情を注いで作成されたものであるため、意に沿わない改変をされた場合に受ける精神的苦痛から、著作者を救済することにあります。これにより、著作者の主観的な利益であるこだわりや愛着などを保護しているものといえます。

また、同一性保持権が題号にまで及ぶのは、題号が著作物と一体をなすものであり、区別すべきではないからです。題号は一般的に著作物として保護されないのですが(2-1-2.2)参照)、他人が著作者に無断でこれを改変すると、同一性保持権の侵害にあたる場合があります。

著作者人格権侵害については、著作財産権が侵害された場合に比して、精神的損害が発生したことによる慰謝料請求が認められやすいため、原告が著作者人格権の侵害を主張することには実益があります(岡村久道「著作権侵害訴訟の実務」)。著作者人格権はかなり強力な権利であることが理解できるはずです。

3)同一性保持権の内容

(1)意に反する改変

意に反して」の要件により、著作者は他人による改変に対して広範囲に同一性保持権を主張できることになります。そのため条文を形式的に解釈すれば、たとえささいな変更であっても同一性保持権の侵害にあたる場合があります。

ただし、ささいな変更が同一性保持権の侵害にあたるかは個別具体的な判断が必要であり、実際には否定されることもあるでしょう。その理論構成としては、同一性保持権が認められている趣旨から導いたり、下記4)(4)で後述する20条2項4号の「やむを得ない改変」にあたると考えることもできます(中山・著作権法386頁)。

また、予測可能性・法的安定性を担保する必要があるため、通常の人間が名誉感情を害されることのない改変ならば、同一性保持権の問題は生じないとする学説もあります(田村・概説436頁)。同一性保持権がいくら著作者のこだわりを保護する趣旨だとしても、著作者の恣意を許すものではないことに注意が必要です。

なお、本条は「その意に反して」との文言であるのに対し、113条6項および90条の3第1項では「名誉又は声望を害する」という文言であることに留意しておいてください。条文の素直な解釈としては、著作者の主観的なものを尊重している意図といえます。

つまり、著作者の名誉・声望を害しているかどうかに関係なく、著作者の意に反しているかどうかによって、同一性保持権が侵害されたかどうかが決せられるのです。したがって、著作者の主観的な部分が多分に関与するため、改変を行う場合は基本的に著作者の同意を求める必要があります。たとえ作品をよりよいものにする改変であっても、それが著作者の意に反するものであれば、同一性保持権の侵害にあたる場合があります。

(2)具体例

性描写がない作品を元にして、性描写を内容とする作品を作成、販売したことを理由に、同一性保持権の侵害を認めたケースがあります(東京地判平成11.8.30「どぎまぎイマジネーション」事件)。被告は、同人文化の一環としての創作活動であり、違法ではないと主張しましたが、退けられました。

また、連射機能を有したコントローラーが、ゲームソフトメーカーの同一性保持権を侵害しているか争われたことがありますが、連射機能がゲームソフトのプログラム自体に改変を加えるものではなく、影像の変化やストーリー展開は予定された範囲内であるとして、否定した判例があります(大阪地判平成9.7.17「ファイティングスティックNEO事件一審)。

複製の場合も同一性保持権の侵害にあたる場合があることに注意してください(京都地判平成7.10.19「アンコウ行灯」事件)。5-2.複製権で後述しますが、複製とは完全な再現を意味するものではなく、創作的な表現部分の再製をいうので、改変を加えても複製といえる場合があるからです。

ただ、元の著作物の本質的特徴を直接感得できない程度にまで(創作的な表現部分が再製されていない程度にまで)改変が進んだ場合は、もはや別個の著作物であり、同一性保持権は及ばなくなります(最判平成10.7.17「本多勝一反論権」事件、東京地判平成11.10.27「雪月花」事件)。

たとえば、照明器具中のカタログ中に、書が掛け軸として配置されているモデルハウスの和室の写真が背景として掲載されていても、当該写真からは書の濃淡、筆の運び、筆勢など書の美術著作物としての本質的特徴を直接感得できないため、複製権侵害および同一性保持権の侵害は否定されます(前掲「雪月花」事件)。

著作者の許諾がない替え歌、パロディ、オマージュ(リスペクト)、洋画のタイトルの意訳などは、同一性保持権を侵害する可能性があるので、注意が必要です。
 「創作的な表現部分が再製」という部分はわかりにくいかもしれません。たとえば、恋愛シュミレーションゲームに登場する清純なヒロインとそっくりな女性キャラクターを描き、このキャラクターが性行為を繰り返すアニメーションビデオを制作したとします。
 このとき、完全に同じ絵とまでいえなくとも、元々のヒロインの本質的な特徴(あごの形状、髪の毛の色・長さ、髪型、瞳の形状・色、服装など)がアニメに登場している女性キャラクターと共通していれば、複製(または後述の翻案)にあたるわけです。そして、性描写のない作品に登場するヒロインに性行為を行わせている点で、同一性保持権を侵害しているということになるのです(前掲「どぎまぎイマジネーション」事件)。

4)同一性保持権の適用除外

同一性保持権は強力な権利であるため、いっさいの例外を認めなければ著作物の利用・流通を阻害することになり、著作権法の目的に反することになります(1条、1-2.参照)。また、同様にその強力さがゆえに、著作物の経済的価値を損なわせ、かえって著作者の利益を失わせるおそれがあります。そこで、同一性保持権には以下のような例外が認められています(20条2項)。

同一性保持権があまりに強力すぎると、たとえば著作権をすべて譲り受けた者が、10万文字中の50文字を修正するような改変をした場合でも、著作者に同一性保持権侵害を理由として提訴される可能性があるわけです。そうすると、著作権は危なっかしい権利ということになり、高値で取引されなくなります。よって、著作者には十分な利益が入ってこなくなり、これでは不都合だということです。

(1)教育目的の利用(1号)

学校教育の目的上、やむを得ないと認められる改変には、同一性保持権が及びません(同項1号)。たとえば、小学生向けの教科書に文学作品を掲載する場合に、難しい漢字をひらがなにする行為などです。

(2)建築物の増改築等に伴う改変(2号)

建築物の増改築、修繕、模様替えによる改変には、同一性保持権が及びません(同項2号)。建築物は本来実用的なものであるため、改変が必要不可欠な場合があるからです。

ただし、美術的要素の大きい建築物の場合、美的観点や趣味による増改築などは本号の適用を受けず、同一性保持権の侵害にあたることがあります(中山・著作権法399頁)。

なお、本号は「建築の著作物」ではなく「建築物」との文言が使用されており、したがって、一般の建築物の増改築などにおいても適用されると解釈することが可能です(前掲・400頁)。

(3)プログラムの利用に伴う改変(3号)

プログラムの著作物について、コンピュータで利用できるようにしたり、より効果的に利用しうるようにするために必要な改変は、同一性保持権の侵害になりません(同項3号)。Windows用のソフトをMacintoshで使えるようにする行為や、バグを取り除く行為(デバック)などがあげられます。

これらの改変は、機能性を有したプログラムの利用に伴うものであり、またプログラムの著作物は処理の効率性に重点が置かれて作られるため、他の著作物と比べて著作者の人格的利益の付着の度合いが薄く、人格的利益を害するものでもないでしょう。そこで、プログラムの利用に伴う改変には同一性保持権が及ばないものとしました。

(4)やむをえない改変(4号)

1〜3号のほか、著作物の利用の目的・態様に照らし、やむをえないと認められる改変には同一性保持権が及びません(同項4号)。たとえば、未熟な技術により演奏をする場合や、マンガを引用する者が、当該マンガに登場する他人の名誉感情を害さないようにするため、似顔絵の部分に目隠しを入れる場合などです(東京高判平成12.4.25「脱ゴーマニズム宣言」事件)。また、映画のビデオ化、テレビ放送のさいに、画面の左右をトリミング(切除)する行為も本号に該当します(東京高判平成10.7.13「スゥイートホーム」事件)。

送り仮名の変更、読点の削除、中黒「・」の読点への変更、改行の変更が、この20条2項4号の「やむを得ないと認められる改変」といえるか争われたことがあります。判例は、20条2項が同条1項の例外規定であることからすると、「やむを得ないと認められる改変」といえるためには同条2項1号・2号の場合と同程度に改変する必要性がなければならないとし、前記のような改変にはこの必要性が認められず、20条2項4号に該当しないと判断しました(東京高判平成3.12.19「法政大学懸賞論文」事件)。

ただし、「法政大学懸賞論文」事件では、明らかな誤植の訂正については、同一性保持権の侵害が否定されています。

5)私的使用領域での改変

たとえば、TVゲームソフトを買ってきて、これを個人的に利用するために、登場人物のパラメータやモーションを変更するなどして改造した場合、それが同一性保持権の侵害にあたるか否かは、個別・具体的な判断が必要とされます。

なぜなら、形式的に考えてしまうと著作者の利益に偏することになり、また著作物に改変が加えられても、「それが私的領域に止まる限り、人格的利益の侵害が著しく進行し容認しがたいものに変質するわけではない」からです(田村・概説451頁)。

ただし、ユーザーが、ゲームソフト内の主人公のパラメータやストーリーを変動させる特殊なデータが入ったメモリーカードを購入して使用する行為は、同一性保持権の侵害にあたるとした判例があります(最判平成13.2.13「ときめきメモリアル」事件)。

一般的に、プログラムの改造はアンダーグラウンドなものとされる傾向があります。しかし、「法文上改変を許容する規定がないからといって、同一性保持権侵害と捉えるべきではなく、改変の具体的態様及びそれにより害され得る著作者の人格的利益の内容などを踏まえ」て、違法といえるか否かを実質的に考えるべきでしょう(作花・概説220頁〜)。