1)序

著作隣接権とは、著作物を伝達するために重要な役割を果たしている者に認められている権利の総称です。

たとえば、CD化された歌謡曲には、作詞家、作曲家、音楽出版社、歌手、演奏者、レコード会社が関与しています。このうち、歌手、演奏者、レコード会社が著作隣接権者で、作詞家、作曲家、音楽出版者は、著作者ないし著作権者です。

歌手は目立つものですから、私たちはつい歌手が著作権を有しているかのように考えがちです。しかし、歌手以外の人が作詞・作曲・編曲をして、演奏家が演奏して、歌手が歌って、レコード会社がCDを発売するというのはよくあることです。

創作活動はいわば、「餅は餅屋に」の考えによって成り立っており、著作権者でない者であっても、著作物を伝達するうえで重要な意義を有している者の利益も保護する必要があります。そこで、著作隣接権というものが認められるようになったのです。著作隣接権は、1970(昭和45)年の現行著作権法が制定されたときに導入されました。

なお、著作隣接権は、著作権とは別個独立のものであり(二元的構成)、著作隣接権制度は著作者の権利に及びません(90条)。また、スポーツ中継を放送する場合など、著作物以外の情報を伝達することもあるため、著作隣接権者が伝達するものは著作物に限られず、厳密には情報であるといえます(中山・著作権法422頁)。

著作隣接権ということばは、著作権に隣接するという意味合いで名づけられたものです。すなわち、実演家やレコード製作者、放送事業者、有線放送事業者は、著作物をみずから創作しているわけではないので、著作者ではありません。そのため著作権そのもので保護するのは無理があります。しかし、彼らは著作物を伝達する役割を負っており、その意味で著作権に隣接しているといえます。そこで、著作隣接権ということばが生まれたわけです。

2)著作隣接権者

著作隣接権を有している者は、実演家レコード製作者放送事業者・有線放送事業者です。

3)著作隣接権の発生

著作隣接権、および後述する二次使用料請求権・報酬請求権は、いかなる手続きも必要とせずに実演・発行・放送と同時に発生します(89条5項)。この点は著作権と同様に無方式主義が採用されています(1-3-1.参照)。