具体的には、以下のようなものが著作物として著作権法10条1項に例示されています。これらは限定列挙ではなく例示列挙です。

また、2-1.著作物性で示した著作物性の要件を満たしてさえいれば著作物といえますから、以下の著作物の複数に該当する場合もあります。創作した作品が未完成であっても、著作物性の要件を満たしていれば保護されます。

  1. 言語の著作物(10条1項1号)
  2. 音楽の著作物(同項2号)
  3. 舞踏・無言劇の著作物(同項3号)
  4. 美術の著作物(同項4号)
  5. 建築の著作物(同項5号)
  6. 図形の著作物(同項6号)
  7. 映画の著作物(同項7号)
  8. 写真の著作物(同項8号)
  9. プログラムの著作物(同項9号)

1)言語の著作物

言語の著作物(10条1項1号)には、小説、脚本、論文、作文、レポート、手紙(東京高判平成12.5.23「三島由紀夫未公表手紙出版」事件)、電子メール、日記、詩(歌詞)、俳句、川柳、マンガ(セリフの部分)、Webサイト、朗読、座談会での発言、講演などがあります。

言語の著作物の場合、なんらかの媒体に固定(録音・録画、印刷など)されている必要はありません。つまり、固定要件は不要ですので、原稿なしで行われた講演なども著作物として保護されます(1-3-4.参照)。ただし、映画の著作物は固定要件が必要です(2条3項)。

標語やスローガン、題号などは、創作性がないことが通常であるため、言語の著作物として保護されないのが通常です(2-1-2.参照)。

講演が著作物というのはイメージが持ちにくいかもしれません。しかし、著作物といえるためには物に固定されている必要はないのです。つまり、講演がテープ、CD、DVDなどの記録媒体に録音・録画されていなくとも著作物として保護されるわけです。したがって、講演を録音してそれを講演者に無断で販売すれば著作権侵害となります。

2)音楽の著作物

音楽の著作物(10条1項2号)には、楽曲や歌詞などがあります。歌詞のなかには、当初はふつうの詩(言語の著作物)として作られたものに、あとで楽曲が加えられて音楽の著作物になるというケースがあります。この場合は、言語の著作物としての面と、音楽の著作物としての面を併せ持つことになります。

音楽の著作物の場合は、同一性(類似性)の問題、いわゆる「パクリ」が問題になることがあります。音楽は、メロディ、和声、拍子、リズム、テンポなどの要素からなり、同一性の判断についてはメロディがもっとも重視され、他の要素も必要に応じて考慮されます(東京地判平成12.2.18「どこまでも行こう・記念樹」事件)。

即興の歌であっても著作物として保護されます。上の言語の著作物と同じで、記録媒体に固定されている必要はありません。

3)舞踏・無言劇の著作物

舞踏・無言劇の著作物(10条1項3号)とは、「身振り・手振り等の体の動きを通し、振付によって思想・感情を表現した著作物」のことをいいます(中山・著作権法73頁)。

たとえば、ダンスやバレエ、日本舞踊、パントマイムなどの振り付けが、舞踏・無言劇の著作物といえます(バレエの振り付けにつき東京地判平成10.11.20)。

あくまでも振り付け自体が著作物である点に注意が必要です。振り付けを踊る行為は実演といい、実演する者を実演家といいます(9-2.にて後述)。実演家は著作物を創作しているのではなく、著作物を演じているのです。

有名な振付師はたくさんいますが、舞踏著作物は影の薄い著作物です。問題になることはほとんどありません。ただ、振付が著作物であり、振付を踊ることが実演であるという点は、覚えておいてください。

4)美術の著作物

美術の著作物(10条1項4号)には、絵画、版画、壁画(大阪地判昭和60.3.29「日野市壁画」事件)、彫刻、マンガ(絵の部分)、子どもの描いた絵、(東京地判昭和60.10.30「動書」事件)、舞台装置(東京地判平成11.3.29「舞台用造形美術品」事件)、雪像、氷像、生け花などがあります。美術の著作物には美術工芸品を含みます(2条2項、下記(3)で後述)。

作風や画風はアイディア・イメージであるため表現物とはいえず2-1-3.参照)、したがって著作物として保護されることはありません(京都地判平成7.10.19「行灯・アンコウ」事件)。

子どもの描いた絵も美術の著作物として保護されます。作者の年齢だとか、あるいは作品の芸術性の程度といったことは、著作物性と関係ないので注意してください。

(1)文字

文字は、美術の著作物として著作権法により保護されるのでしょうか。文字は情報伝達という実用的機能を有しているため、書やタイプ・フェイス(書体)につき著作物といえるのか争いがあります。

ア 書

の著作物性については、前掲「動書」事件や「動書看板」事件(東京地裁判平成元.11.10)で肯定されています。書は文字ですが、もっぱら思想または感情にかかる美的な創作であり、情報伝達という実用的機能を果たすものではなく、美的な鑑賞の対象だからです(東京高判昭和58.4.26「ヤギ・ボールド」事件参照、東京地判平成11.10.27「雪月花」事件)。

ただし、書の字体は、同じものを書こうとすればどうしても似てしまうことがあります。したがって、書が著作物として保護される範囲は狭いものであり、たんに書風が似ているというだけでは著作権侵害の問題は生じないと解されます(田村・概説97頁)。

書が美術の著作物といえるのは違和感がないかと思われます。では書体、すなわちタイプフェイスはどうでしょうか。書と同様に美しいデザインのものが多数ありますが、著作物といえるのでしょうか。

イ タイプ・フェイス

タイプ・フェイス(書体)とは、「活版、写真植字、電子プリンターなどの印刷技術により文章を組み立てる際に、その利用に供されるために創作された文字の書体のセット」のことをいいます(作花・詳解151頁)。ゴシック体や明朝体などがその例です。

タイプ・フェイスは、それが情報伝達という実用的機能を有したものであり、なおかつ美的な鑑賞の対象とはならない(美的感興を呼び起こすものではない)ことを理由に、美術の著作物とはいえないとして著作物性が否定されています(前掲「ヤギ・ボールド」事件、大阪地判平成元.3.8「写真植字機文字盤製造」事件、東京高判平成8.1.25「Asahi vs AsaX」事件、東京地判平成12.9.28「ロゴ著作物性」事件、最判平成12.9.7「印刷用書体ゴナU・ゴナM」事件)。

かりにタイプ・フェイスに著作物性が容易に認められるとすると、これを用いて作成された言語の著作物を複製(出版)するさい、言語著作物の著作権者の許諾のほかにタイプ・フェイスの著作権者の許諾をも得る必要があり、これでは言語著作物の利用に支障が出てしまいます。
 しかし、タイプ・フェイスといえども創意工夫を要し、相当の労力と時間がかかるでしょう。さらには美的感覚といったものも必要です。そこで、タイプ・フェイスにも美術の著作物として著作権法により保護できないかということが問題になるのです。

(2)キャラクター

マンガのキャラクターそれ自体は、具体的に表現されたものではないため、著作物とはいえません2-1-3.参照)。ただし、マンガの絵の部分は美術の著作物です。

(3)応用美術

純粋美術に加え、応用美術であっても美術工芸品は、美術の著作物として保護されることは著作権法の2条2項により明確です。しかし、美術工芸品以外の応用美術については、保護されるのかどうか条文上明確ではありません(2-1-4.2)参照)。

5)建築の著作物

建築の著作物(10条1項5号)とは、芸術的な建築物(建築芸術)をさしています(福島地決平成3.4.9「シノブ設計」事件)。たとえば、宮殿や寺院などの歴史的建築物がこれにあたります。

建築に関する図面に従って建築物を完成させることは建築の著作物の複製といえますが(2条1項15号ロ)、建築設計図を写し取るかたちでの複製は下記同項6号の問題となります。

10条1項5号の趣旨は、建築物によって表彰された美的形象を、模倣建築による盗用から保護することにあります。そのため、通常の住宅やビルであっても、それが社会通念上美術の範囲と考えられるものであるならば、建築の著作物として保護されます。

6)図形の著作物

図形の著作物(10条1項6号)には、地図、学術的な性質を有する図面(設計図)、図表、グラフ、模型・人体模型、地球儀などがあります。

(1)地図

地図は一見すると、創作性がないように見えます。しかし、地図は限られたスペースのなかに必要なデータを取捨選択して記入したものであり、個性、学識、経験などが反映されるため、創作性は肯定されます(大阪地判昭和26.10.18「学習用日本地図」事件)。

住宅地図についても同様のことがいえますが、略図的技法からくる制約があるために、地図一般と比した場合は著作物性の範囲は狭いものとなります(富山地判昭和53.9.22「富山市住宅地図」事件)。

(2)設計図

学術的な性質を有する図面の典型は設計図です。ここで保護されるのはあくまでも技術的思想が表現された設計図であり、技術的思想そのものではありません(大阪地平成4.4.30「丸橋矯正機設計図」事件)。技術的思想そのものは、所定の要件を満たした場合に限り、特許法ないし実用新案法によって保護されるものです(2-1-1.参照)。

また、2条1項15号ロは建築著作物についての規定であることから、機械の設計図に従って著作物ではない機械を制作する行為は、複製とはいえません(前掲「丸橋矯正機設計図」事件)。

さらに、技術者であればだれもが同じような機械などの設計図を作成せざるを得ない場合は、表現方法に創作性が認められず著作物性が否定されます(2-1-2.参照)。

7)映画の著作物

映画の著作物(10条1項7号)は、典型的には劇場用映画があげられます。ほかには、下記(1)で述べるとおりテレビ番組、ビデオソフト、ゲームソフトなども映画の著作物に含まれます。

映画の著作物といえるためには、連続した影像による表現に創作性が認められなくてはいけません。そのため、監視用カメラなど、ある場所にビデオカメラを設置して自動的・機械的に撮影したものは、創作性があるとはいえず、映画の著作物にあたりません。

(1)映画の著作物の範囲

映画の著作物には、@映画の効果に類似する視覚的、または視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、A物に固定されているB著作物を含みます(2条3項)。これは、物に固定された影像を、短い時間で連続的に液晶画面などに高速表示し、動きのある影像として見せる視覚的効果、または影像に音声をシンクロさせる視聴覚的効果を生じさせるような著作物を意味しています。したがって、DVDに録画されたテレビ番組も映画の著作物といえます。

生放送の影像は物に固定されていないため、映画の著作物から除外されます。ただし、放送と同時に固定された場合は固定要件を満たし、映画の著作物となります(東京高判平成9.25「スポーツ競技テレビ放送権国内源泉所得」事件)。

著作権の対象となるのは情報という無体物であり、原則として情報が物に固定されている必要はないのですが(1-3-4.参照)、映画著作物については、当時フィルムに固定されていない映画というのは考えられず、生放送番組を映画著作物の範囲から排除するために、例外的に固定性の要件が規定されたのです。

従来は、著作権法上の映画の著作物といえば、もっぱら劇場用映画をさしていました。つまり映画館で上映されている映画をさして、映画の著作物とよんでいたのです。しかし、テレビ放送が始まりテレビが普及してくるようになると、テレビ放送も保護する必要性が生じてきました。そこで2条3項により、限定的に映画著作物の範囲を拡張することとしたのです。そのため、日常用語の「映画」と著作権法の「映画著作物」とでは、意味にズレが生じています。
 なお、@〜Bはそれぞれ、表現方法の要件、存在形式の要件、内容の要件ともよばれます。

(2)ゲームソフト

映画は、同一内容の影像がつねに同一の順序により再現されるものです。そこで、インタラクティブ性のあるゲームソフトが10条1項7号・2条3項にいう「映画の著作物」といえるかどうか(上記@〜Bに該当するか)が争われたことがあります。

この点、最高裁は、操作によって影像や音声は変化するものの、それは「プログラムによってあらかじめ設定される範囲のもの」としたうえで、ゲームソフトは2条3項に該当し、映画の著作物であると判断しました(最判平成14.4.25「中古ゲームソフト」事件)。

ただ、「三国志V」(シミュレーションソフト)は映画の著作物とはいえないという判断がされたことがあります(最決平成13.2.21「三国志V」事件)。これは、同ゲームソフトでは静止画像が動画影像に比して圧倒的に多く、映画と同様の視覚的効果がないと判断されたためですが、異論の多いところです。

8)写真の著作物

写真も著作物として著作権法により保護されます(10条1項8号)。そのためには写真に創作性がなくてはいけません。たとえば、絵画のような平面的な被写体を撮影しただけでは創作性は認められず、写真は著作物とはいえないことになります(東京地判平成10.11.30「版画写真」事件、2-1.2)参照)。証明写真や、人工衛星が写した航空写真も同様です。

これに対し、ブロマイド写真は被写体にポーズをとらせたり、光による陰影、カメラアングル、シャッターチャンスなどに創意工夫が見られるので写真著作物といえます(東京地判昭和62.7.10「真田広之ブロマイド」事件)。

個性のない代替性のある写真Aと同様の撮影方法(被写体の構図、アレンジ、ライティング、シャッターチャンスなど)を用いて写真Bを撮影しても、写真Bは写真Aの複製物とはいえません(大阪地判平成7.3.28「カーテン用副資材商品カタログ」事件)。なぜなら、そのような撮影方法は抽象的なアイディアにすぎないため、著作物とはいえないからです(2-1-3)参照)。

歌手が被写体であるCDジャケットの写真は写真の著作物です。しかし、このCDを買ってきて、ジャケットをデジタルカメラで撮影しても、できあがった写真は著作物とはいえません(東京地判平成11.3.26参照)。したがって、当該ジャケットの写真をデジタルカメラで撮影した者は著作権を主張することができないのです。

9)プログラムの著作物

コンピュータを動作させるためのソフトウェアのことを、プログラムといいます。より具体的には、電子計算機を機能させて特定の結果となるように、電子計算機に対する指令を組み合わせて表現されたもののことを意味します(2条10号の2)。

プログラムは、プログラム言語による命令を組み合わせることで、思想を創作的に表現したものであり、また今日におけるコンピュータ社会において、文化の発展に密接に関連しています。そこで、昭和60年の法改正により、プログラムは著作物として保護されることになりました(10条1項9号)。ゲームソフトやPCソフトなどがプログラムの著作物にあたります。

ただし、プログラム言語、規約、解法には、プログラムの著作物に対する保護が及びません(10条3項)。なぜなら、プログラム言語は表現の手段でしかありませんし、規約や解法はルールないしアイディアでしかなく、表現されたものではないからです(2-1-3.参照)。

プログラムの著作物につき注意が必要なのは、著作物の要件である創作性が認められない場合が生じやすいということです。プログラムは実用的・機能的性格が強く、そのため効率的・合理的な方向に向かっていきます。よって、最終的には表現の選択肢が狭くなってしまい、だれもが同じようなものを作成する傾向があるため、創作性が認められにくいということです。

電子計算機というのは、PCのほか、wiiなどのテレビゲーム機や家電製品に組み込まれているマイクロプロセッサなども含みます。また、プログラムには、ソースコード(アセンブリ言語や高級言語)、オブジェクトコード(機械語)、コンパイラ、OSなども含みます。
 なお、プログラムの世界では「プログラミング言語」という呼称が一般的ですが、著作権法上は「プログラム言語」と表記されています。