1)序

インターネットの登場・普及により、私たちは外出せずとも家のなかで公に情報を発信することが可能となりました。つまり、私的な領域内から公的な領域内へ身体を移動させずに、不特定または多数の者に対して情報を自由に発信することが可能となったのです。

ということは、外出することが公的な領域内への移動で、反対に帰宅することが私的な領域内への移動という区別は薄れたことを意味します。したがって、インターネットにより私的領域と公的領域との区別があいまいになってきたといえるでしょう。

そこで、たとえ私的領域内での公衆への情報送信であっても、それが著作権者の経済的利益を損なうものであるならば、情報送信を規制する必要があります。本歓では公衆送信、とりわけインターネットを通じた情報の送信である自動公衆送信送信可能化)がもっとも重要です。

2)公衆送信権

(1)概説

著作権者は公衆送信権を専有しています(23条)。

公衆送信とは、公衆によって直接受信されることを目的として、無線通信または有線電気通信の送信を行うことをいい(2条1項7号の2)、具体的には放送・有線放送権(2条1項8号)、自動公衆送信権(2条1項9号の4)、送信可能化権(2条1項9号の5)をさしています。

公衆送信はあくまでも公衆に対しての送信をいうところ、特定人に対する送信である電話やファクシミリ、電子メールは、ポイント・ツー・ポイントの送信であり(否ピア・ツー・ピア)、公衆送信にあたりません。

また、同一構内で行われる有線LANおよび無線LANによる送信については、原則として公衆送信の対象外ですが、プログラムの著作物については著作権者に与える不利益に鑑み、公衆送信の対象となります(2条1項7号の2)。

(2)放送・有線放送

放送とは、公衆送信のうち、公衆によって同一内容の送信が同時に受信されることを目的として行う、無線通信の送信をいいます(2条1項8号)。

有線放送とは、公衆送信のうち、公衆によって同一内容の送信が同時に受信されることを目的として行う、有線電気通信の送信をいいます(2条9号の2)。

たとえば、劇場用映画をテレビ放送しようとする場合には放送権が関係してきますので、著作権者の許諾を得なくてはいけません。

(3)自動公衆送信

自動公衆送信とは、放送または有線放送を除く公衆送信のうち、公衆からの求めに応じて自動的に行うものをいいます(2条1項9号の4)。

たとえば、MP3の音楽ファイルをサーバにアップロードしておき、不特定多数にダウンロードさせる行為がこれにあたります。また、動画ファイルや音楽ファイルのストリーミング配信(ライブカメラやインターネットラジオなど)も同じことです。

ねとらじなどでインターネットラジオのことを「放送」という人がいるのですが、これは著作権上、正確ではありません。正確には「自動公衆送信」です。
 すなわち、放送というのは情報を一方的に送信する行為をいい、受信者(視聴者)は原則として受身です(プッシュ型)。つまり、受信者が望むかどうかに関係なく、情報を一方向に流している状態です。これに対し自動公衆送信は、送信者が受信者の要求を受けてはじめて情報を送信する行為をいいます(プル型)。つまり、受信者が望めば情報を送ってもらえるのですが、逆に受信者が望まない場合は情報が送られてこないわけです。

(4)送信可能化

送信可能化とは、主としてサーバにアップロードしたファイルにつき、不特定多数によるダウンロードが可能な状態にすることです(2条1項9号の5)。送信可能化という概念は、自動公衆送信の前段階のことをさしています。

つまり、著作物を著作権者の許諾を得ずにアップロードすると、ダウンロードの有無にかかわらずその時点で送信可能化権を侵害したことになり、実際にダウンロードがあった場合は、アップロードした者は自動公衆送信権を侵害したことになるわけです。また、そもそもアップロード時においてサーバに著作物を複製しているので、複製権も侵害しています。

WinnyやShareなどのファイル共有ソフト(ファイル交換ソフト)では、同ソフトを使用してダウンロードしたファイルは共有フォルダに置かれ、他人からアクセス可能な状態になります。したがって、著作権者の許諾がない場合は送信化可能化権を侵害することになります。そして実際にアクセスがあれば、自動公衆送信権を侵害することになります(著作権なるほど質問箱CRIC)。

3)伝達権

伝達権とは、公衆送信される著作物を、受信装置を用いて公に伝達する権利のことです(23条2項)。たとえば、TV放送されているサッカーの試合を大型スクリーンに映写する行為がこれにあたります。伝達権が問題になるケースはまずないでしょう。