著作権の保護期間は、原則として著作者が著作物を創作したときから、著作者の死後50年までとなっています(51条)。これに対して特許権の保護期間は、特許を出願した日から20年となっており(特許法67条1項)、著作権は存続している期間がきわめて長いことがわかります。
特許法は技術を規律する法律です。技術の世界というのは、より効率的・合理的な方向へ向かって収束するという性質を持っています。そのため、ある技術を長期にわたって独占させてしまうと、当該技術を利用した他の技術が制約されることになり、産業の発達の妨げになってしまいます。また、効率的・合理的な方向へ向かって技術が発達するということは、その技術を発明する者が現れなかったとしても、社会はいずれ同レベルの技術水準に到達していたということです(田村・概説269頁)。
他方、著作権法は文化を規律する法律です。文化は多様性の世界であり、ある著作物に長期にわたって権利を認めて独占させても、ほかの著作物の創作が妨げられることは通常ないでしょう。たとえば、二足歩行型のロボットが人間を助けるマンガに長期の著作権を認めても、二足歩行型のロボットどうしが戦闘するマンガを創作することは可能です。つまり、文化が多様性の世界であるがゆえに別の作品を創作することができ、その意味で選択できる表現の幅が広いわけです。
また、文化が多様性の世界であるということは、「その人」だからこそ「その著作物」を創作できたということを意味しています。たとえば、アイザック・アシモフだからこそ『夜来たる』を執筆でき、レオナルド・ダ・ヴィンチだからこそ『モナ・リザ』を描くことができました。このように、文化の世界は個性が発揮されやすく、著作権の保護期間は特許権のそれに比べて長期であっても大きな弊害はないと考えられ、現行法のように長期の保護期間が規定されているのです。
ただし、だからといって著作権の保護期間がむやみに長くてもよいというわけではありません。あまりに長い独占を認めてしまうと、逆に文化の発展にとっては不都合だからです(7-1.にて後述)。この点、著作権の保護期間が50年であるのは長すぎるとして、意義を唱える研究者もいます(田村・概説269〜270頁、中山・著作権法56頁、343〜345頁)。
適切な著作権の保護期間の長さを決めるのは、とても難しいことです。しかし、歴史的には保護期間がどんどん延長されており、また2008年現在においても世界的にそのような潮流があります。