一口に著作権といっても、じつはとても多義的なものであり、意味を誤って使われることが多くあります。そこでまずは、著作権という概念を整理してみましょう。

1)著作権の分類




著作権は、大きく著作者の権利4章5章で後述)と、著作隣接権9章で後述)とに分類できます。

そして、前者の著作者の権利は、著作者の人格を保護する著作者人格権と、著作者の財産を保護する著作財産権とに分けられます。また、後者の著作隣接権は、実演家の権利レコード製作者の権利など処々の権利に分けられます。

「著作権」という用語はさまざまな意味で使われるので注意しましょう。著作財産権という権利だけをさして「著作権」とよんだり、それに加え著作者人格権という権利をも含めて「著作権」とよんだり、また著作隣接権という権利まで含めて「著作権」とよぶこともあるからです。

著作財産権が著作権とよばれることがあるのは、15世紀のヨーロッパで著作権概念の基礎が誕生した当初、著作権はまず出版者の財産的利益の保護を目的として法的承認を受けたという歴史があるからです。その後、著作者人格権が誕生し、最後に著作隣接権が新設されて、著作権概念は順次拡大されてきたのです。

たとえば、「著作者の権利には著作者人格権と著作権とがある」といった場合、この「著作権」ということばは著作財産権のことを意味しています。また、論文を書いた人が「この論文の著作権は私にある」といった場合は、著作者人格権と著作財産権が自分にあることを表明しているのでしょう。さらに、「著作権法は複雑で難しい」といった場合は、著作者人格権と著作財産権、および著作隣接権を含めた広い意味をさしているはずです。

2)知的財産権




著作権は知的財産権の一種です。知的財産とは、人間の創造活動によって生み出されたもの、および営業上の標識のことをいいます(知的財産基本法2条1項参照)。

人間の創造活動というのは、たとえば発明や考案、工業デザイン、著作物のことです。営業上の標識というのは、商品やサービスのロゴマーク、商号のことをいいます。

知的財産権(知的所有権)には、著作権のほかに、特許権、実用新案権、意匠権、商標権などがあり、後四者は産業財産権(工業所有権)ともよばれています。

3)版権

版権という用語は、1899(明治32)年に旧著作権法が公布されるまで使われていたものであり、現行法のものではありません。

「版権もの」「版権ビジネス」などの用語を見かけることがありますが(IT media News、ゲーム画面下段「版権を大枚」「版権者は」)、現行の著作権法上には存在しない用語なので、使わないほうがよいでしょう。

版権ということばは、福沢諭吉が"copyright"の訳語として使ったのが始まりでした。版権は、著作物を利用する方法が出版しかなかった時代の名残です(版権の「版」は出版の「版」)。出版業界など一部の業界ではいまだに「著作権」の意味で使用しています(学研の例、「版権について」)。