1)定義

二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、著作財産権で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を有しています(28条)。これを二次的著作物利用権といいます。

2)趣旨

二次的著作物利用権は、二次的著作物の利用のさいには原著作物の表現の利用を伴うために認められたものです。

3)具体例

原著作物の著作者が二次的著作物の著作者と同一の種類の権利を有しているということは、二次的著作物を利用する場合、二次的著作物の著作者の許諾のほか、原著作者の許諾も必要になることを意味します。

たとえば小説(言語著作物)を書いた作家は、それをもとにして作成された映画著作物に対して頒布権が認められることになります。小説には頒布権が認められていませんが、映画著作物という二次的著作物が作成されたことにより、結果的に頒布権が認められるのです。

ただし、同一の種類の権利といっても、原著作物の著作者は二次的著作物に関するすべての表現について権利行使できることをさすわけではありません(反対の判決として東京高判平成12.3.30「キャンディ・キャンディ」事件控訴審)。原著作物の著作者はあくまでも、原著作物の創作的表現が二次的著作物に引き継がれている部分についてのみ、二次的著作物に関する権利を行使できるにすぎません(最判平成9.7.17「ポパイ・ネクタイ」事件)。

なぜなら、著作権法は創作的な表現を保護するものであり、二次的著作物において原著作物の創作的表現が共通していなければ、原著作物の著作者に権利を認める合理的必要性がないからです(田村・概説112〜113頁、115頁、中山・著作権法133〜134頁)。28条は、原著作物の創作的表現が二次的著作物に現れている場合に限って、原著作物の権利が二次的著作物に及ぶことを当然のごとく規定したにすぎないと解されます。

たとえば、Aさんの執筆したフランス語の小説をBさんが日本語に翻訳した場合、翻訳された小説は二次的著作物になるので、BさんだけではなくAさんの許諾もなければ、映画会社は小説を映画化することができません。
 同様に、この日本語版の小説がさらに英語に翻訳されて三次的著作物が作られ、さらに英語版から中国語に翻訳されて四次的著作物が作られた場合であっても、小説の本質的特徴(=創作的表現)であるストーリーやプロットが反映されている以上、やはりAさんの権利が及ぶことになります。
 逆に、著作物の本質的な特徴が二次的著作物に反映されていなければ、原著作物の著作者の権利は及びません。たとえば、小説では言及されていなかった建物がその二次的著作物であるマンガにたまたま描かれていたという場合、原著作物の著作者は当該建物の絵について権利を行使することができません。小説の本質的な部分が現れていないからです。かりに、このような場合に原著作物の著作者に権利を認めてしまえば、創作した者を保護するという著作権制度の趣旨に反することになってしまいます。それを回避する必要があるのです。

3)原著作者との関係

二次的著作物に対する著作権法の保護は、原著作物の著作者の権利に影響を及ぼしません(11条)。つまり、二次的著作物を創作した時点で著作権が発生し、当該二次的著作物は著作権法で保護されるわけですが、しかしだからといって、原著作者の持っている権利が制約されるわけではないということです。

先の例で、Bさんが自身の翻訳した小説を複製する場合は、原著作者であるAさんの許諾が必要です。また、Bさんも翻訳した小説に関して21条により複製権を有していますから、AさんがBさんの翻訳した小説を複製する場合には、やはり彼の許諾が必要です。