1)定義

翻訳権・翻案権とは、著作物を翻訳、編曲、変形、翻案する権利のことです(27条)。翻案の例として、小説化、ドラマ化、映画化、マンガ化、アニメ化、ゲーム化、プログラムのバージョン・アップなどがあります(2-4-1.参照)。著作権者は翻訳権・翻案権を専有していますので(27条)、著作権者の許諾なく翻訳・翻案をして二次的著作物を創作することはできません。

翻案はより具体的にいえば、「既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ(類似性)、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為」です(最判平成13.6.28「江差追分」事件)。

二次的著作物と同義の用語として「二次創作物」があります。二次創作物のなかには、パロディと称して翻案権ないし複製権を侵害しているケースがあります。たとえば、ドラゴンボールやエヴァンゲリオンなどの有名な作品になると、性表現を盛り込んだ作品(いわゆる「エロ同人」「エロパロ」)が存在しています。

翻訳するのも著作権者の権利だというのは意外に思われるかもしれません。しかし、洋画における会話やナレーションの翻訳も、著作権者に無断でできないのです。
 「二次創作」という用語は、初音ミクで有名になったクリプトン・フューチャー・メディアが同社のSNSであるピアプロのガイドラインで使用しています(コンテンツに関するガイドライン)。当該ガイドラインでは、一定の要件を満たしさえすれば、初音ミクなどの画像による二次的著作物の創作が認められています。

2)翻案権におけるポイント

ポイントはまず、既存の著作物の創作的な表現部分が同一でなくてはいけないという点です。独創的なアイディアであっても、それが表現されたものでなくては翻案とはいえません。たとえば、現在の江差町が江差追分全国大会のときにもっとも盛り上がるという認識はアイディアであり、これをもとにして新たな著作物を作っても著作権侵害にはなりません(2-1-3.参照)。

つぎに、創作的な表現部分に新たに創作性を加えて、別個の著作物を作り上げつつ、しかしそこから、既存の著作物の創作的表現を支える本質的要素を感得できるというところが重要です。既存の著作物になんら創作性を加えない行為は翻案ではなく複製であり、また既存の著作物における表現上の本質的要素を感得できない場合は、もはや翻案でさえなく(つまり著作権侵害ではなく)、なんら問題のない行為となります。

本質的要素・特徴が何であるかは個別・具体的な判断を必要としますが、脚本や小説においては基本的なストーリー、プロットなどが類似していれば、著作権侵害が肯定されます(同旨の判例として東京地判平成6.3.23「ぼくのスカート」事件、東京高判平成8.4.16「悪妻物語?」事件)。

なお、複製と翻案はともに、その侵害の要件として依拠および類似性が必要である点で共通しています(10-2.3)で後述)。

3)翻案が問題となる事例

(1)パロディ

判例によると、著作権侵害にあたるか否かは、他人の著作物における表現形式上の本質的な特徴を直接感得することができるかどうかによって判断されることになります(最判昭和55.3.28「パロディ・モンタージュ」事件)。

そして、パロディというのは通常、他人の著作物の本質的特徴を直接感得できなければ意味がありませんから、著作権者の許諾がなければ著作権侵害となってしまいます。しかし、パロディはその性質上、批判的な意味合いがあったり、あるいは他人の作品を茶化す場合がありますから、著作権者の許諾を得ることは難しいでしょう。

また、パロディは複製権同一性保持権との関係でも問題になりえますので(10-2.3)参照、著作権なるほど質問箱)、ほとんどのパロディが著作権侵害にあたることになります。もっとも、パロディの有している社会的意義を考慮すると、そのすべてを著作権侵害とするのは妥当ではないため、いかなる要件を満たしていれば著作権侵害の成立を否定できるのかという点につき争いがあります。

パロディといってもいろいろありますが、他人の作品を嘲笑するためのパロディだと、まずまちがいなく著作権侵害が成立します。テレビ番組のコントのなかには、著作権侵害が成立するであろうパロディが見受けられることがあります。なお、フランスの著作権法では、122条の5第4項にて、パロディは著作権侵害でないと規定されています。

(2)要約

要約についてですが、本や論文の内容を紹介する2〜3行程度の要約や、キャッチコピー程度のものであるならば、違法性はないと考えられます(著作権なるほど質問箱)。しかし、要約を読めば作品内容の主要な部分がわかってしまうという程度になると、著作権者の許諾が必要です(東京地判平成6.2.18「コムライン・デイリー・ニュース」事件)。

(3)替え歌

替え歌は翻案権との関係で問題となります。たとえば学校の生徒が、著作権者の許諾なく校歌の詩を改変して歌うと、翻案権侵害となります(同時に同一性保持権も侵害)。

(4)キャラクターの商品化、グッズ化

原画の複製物に基づいて、立体的な縫いぐるみを著作権者の許諾なく製造・販売した場合、翻案権(変形権)を侵害したことになります(東京地判昭和52.3.30「たいやきくん」事件)。

また、いわゆるコスプレも、もとのマンガやアニメ、ゲームに登場する衣装が著作物といえるような個性のあるもので、それを利用者が立体化したものであるなら、依拠性・類似性の要件を満たしていますので著作権侵害になります(アニメ!アニメ!)。ただし、それが私的な使用目的のものであるならば問題ありません(43条1号・30条1項)。

4)翻案権と同一性保持権

同一性保持権と翻案権が同一人に帰属している場合は、翻案権に関する許諾契約において、改変に伴う限度で同一性保持権が制限されると考えられます(田村・概説433頁)。しかし、著作者が翻案権を譲渡した場合、同一性保持権は制限されるのかという問題があります。

著作者はみずから翻案権を譲渡していること、また、譲受人の予測可能性を担保する必要性から、ある程度は同一性保持権の行使につき制約を受けると思われます(作花・詳解216頁)。少なくとも、翻案権の譲渡を無意味なものとしないようにするためには、改変に伴って必然的に行われる改変は20条2項4号により、「やむをえない改変」として許されるべきでしょう