1)序

他人の著作物を利用しようとする場合、原則としてその著作権者の許諾(63条)を得なければいけません。しかし、著作権法1条が定める「著作物の公正な利用」という観点から、著作権者の許諾を得ずに著作物を利用できる場合が30〜49条に規定されています。これらの規定は著作権を制限するものであるため、著作権の制限規定とよばれています。

2)著作権制限規定の根拠

著作物の実体は情報であるところ(1-3-4.参照)、情報は本来、だれもが自由に利用できるものでした。著作権法がない時代においては、模倣も自由だったのです。

しかし、それでは情報を模倣された者は、つぎの情報を創作する意欲が減退し、あるいは創作した情報を秘匿しようとします。結果、限られた少ない情報しか社会に流出しないことになり、情報の多様性を前提とする文化の発展を阻害することになります(1-2.参照)。

そこで、文化の発展という目的から、著作者による情報の独占を著作権法によって認めたのですが、このような権利を著作者に与えることは、表現の自由(日本国憲法21条)や学問の自由(同23条)など、憲法上保障されている権利と抵触する危険性をはらんでいます。

さらに、上で述べたとおり情報は原則として公共財であり、あくまでも文化の発展という目的のための手段として、法が政策的・人工的に著作者に権利を付与しているにすぎません。したがって、著作者の利益(経済的利益)と社会の利益との調和の観点から、著作権を制限する必要があるのです。

このようにしてみてくると、著作権は天賦の人権ではなく、「著作権を不可侵のものとして絶対視すること自体が誤りであり、その内容は政策的に如何様にも制度設計し得るものである」といえるでしょう(中山・著作権法241頁)。

著作権は絶対無制約の権利ではなく、他者の利益との調整という観点から制約されます(日本国憲法13条、同29条2項)。30〜49条の規定は、憲法上の要請を具体化したものといえ、著作者と、その著作物を利用する他人との利害を調整するために、著作権を制限しているのです。ある支分権が新設されたときに、当該支分権の効力を制限する規定が同時に新設されることがあるのは、このためです(例:26条の3に対する38条4項)。

3)著作権制限規定の種類

著作権が制約されている抽象的な理由は、文化的所産の公正な利用を促進するためですが、各規定の立法趣旨はさまざまです。下記分類はいずれか一つにだけ該当するというものではなく、一つの規定に複数の理由が含まれていることもあります。下記分類は、作花・基礎と応用をもとにしています。

  1. 著作権者に与える影響が少ないもの
  2. 教育・学習目的等のための利用
  3. 表現活動のための利用
  4. 公益性の高い業務の円滑な遂行のための利用
  5. 所有権等との調整が図られた利用
  6. 制限規定による利用に伴う関連規定

なお、複製物の目的外使用等(49条)には注意してください(6-7.3)で後述)。たとえば、CDを借りてきて個人的に複製(ダビング)する行為は、私的複製(30条)であり問題ありません。しかし、この私的複製によって作成されたCDを販売した場合、販売につき著作権者の許諾がなければ著作権侵害となります(49条1項1号)。

4)フェア・ユース

アメリカ合衆国の著作権法にはフェア・ユース(fair use/公正利用)という概念があります(アメリカ合衆国著作権法107条)。フェア・ユースとは、著作権の制限を認める法理のことで、著作権侵害の主張に対する抗弁をいいます。フェア・ユースは以下の事情を考慮して成否が決せられます(同条)。

  1. 利用の目的および性格(使用が商業性を有するか、または非営利の教育的な目的であるかという点を含む)
  2. 著作権のある著作物の性質
  3. 著作物全体の関係における、利用された部分の量および重要性
  4. 著作物の潜在的市場、または価値に対する利用の及ぼす影響

このフェア・ユースが日本の著作権法のもとで認められるか争われたことがあります。被告としては、著作物の利用がフェア・ユースにあたるならば著作権侵害は成立しない(責任を負わない)ことになりますから、日本の著作権法でもフェア・ユースが認められると主張したのです。

しかし判例は、法が30〜49条に具体的に著作権の制限規定を定め、フェア・ユースに相当する一般条項を定めなかったことからすれば、著作権が制限されるのは右各条所定の場合に限られるとし、否定しています(東京地判平成7.12.18「ラストメッセージ in 最終号」事件、東京高判平成6.10.27「ウオールストリート・ジャーナル」事件)。

フェア・ユースが認められているアメリカ合衆国と、それが認められていない日本とで大きく異なるのは、著作権が制限される場合を抽象的に述べているのか(米)、それとも具体的に述べているのか(日)という点です。
 どちらがより優れているのかは一概にいえません。弾力的に著作権法を解釈・適用できる点ではフェア・ユースが優れていますが、予測可能性・法的安定性を高めるという点では日本のような規定のしかたが優れています。
 なお、英語版ウィキペディアでは、フェア・ユースを根拠に多くの写真が掲載されています(Prison Break)。