1)序

著作権法の目的は、著作物等の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与することにあります(1条)。

著作権法は、文化の発展という目的を達成するべく、著作物等を利用する者の利益と、著作者等の利益の調和をめざしているのです。以下、「文化の発展」「著作物等の公正な利用」「著作者等の権利の保護」について解説します。

(1)文化の発展

「著作物等の公正な利用」も、また「著作者等の権利の保護」も、両者は「文化の発展」のための手段です。…続きを読む

(2)著作物等の公正な利用

まず「利用」とは、権利者の有している権利に基づいて、または抵触するかたちで著作物などを用いる行為をいいます。…続きを読む

(3)著作者等の権利の保護

「著作者等」とは、著作者(作詞家や作曲家など)、および著作隣接権者(歌手やレコード会社など。9-1.で後述)をさしています。…続きを読む

2)インセンティブ論と自然権論

著作権制度の意義をどのように説明するのかにつき、インセンティブ論と自然権論との争いがあります。これは換言すれば、なぜ著作権が認められているのかということであり、他人の著作物の利用行為を規制する根拠は何であるのかを論じるさいに実益となります。

インセンティブ論とは、創作活動を誘引・奨励して著作者の経済的利益を保護し、文化を発展させるために、本来はだれもがすることのできる著作物の利用行為を立法的・政策的に制約していると考える理論です。著作権制度を国家による人工的なものと考え、社会全体の利益や著作者の経済的利益を重視しているところに特徴があります。

これに対して自然権論とは、著作物は著作者の精神が乗り移ったものであるとし、著作権は自然権として天から与えられたもの、人工的にではなく自然的に発生する権利と考える理論です。人が努力して創作した作品について、他人がこれを利用するのは自然法ないし正義に反するとします。

著作権法の本質に関わる重要な問題ではありますが、通常はインセンティブ論による立場から説明されることがほとんどです。

他人の書いた小説を複製して配布する行為は、なぜ悪いことなのでしょうか?この疑問についてどう答えるのかが、インセンティブ論と自然権論との対立なのです。
 この点につきインセンティブ論の立場は、著作者の経済的利益を確保して、文学を発展させるために、複製という利用行為を法律で悪いことと決めたのだ、と説明します。
 すなわち、複製は本来、悪い行為ではなく、古くから写本は行われていました。しかし、印刷技術の発達により複製行為が広くなされると、著作者が十分な対価を得ることができないまま小説が利用されてしまい、著作者は経済的に困窮し、創作活動に悪い影響が出ます。結果、文化の発展が阻害され、社会は文化的利益を失ってしまうでしょう。そこで、こういったことを防止するために、法律によって、複製する権利は著作者が独占的に有していると決めて、著作者に無断で複製する行為を禁止しているのだ、と考えていくのです。
 これに対し自然権論は、著作権は法律がなくとも自然の権利として存在するものだという考え方です。すなわち、人が苦労して作品を生み出したのだから、その作品には当然に著作権が発生すると考えていきます。とすると、他人がそうした作品を勝手に利用することは、正義に反するということになります。したがって、自然権論によれば、他人の書いた小説を無断で複製して配布する行為はフリーライドであり正義に反する以上、当然に禁止されているのだと考えるわけです。