1)序

私的使用のために複製を行うことができます(30条1項)。これを私的複製といいます。私的複製は、著作物を個人的に、または家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的として、その使用者が行うことができます。

(1)趣旨

私的複製が認められているのは、限定的な範囲ならば著作権者の経済的利益を大きく害することがないこと、著作物の個人的な利用を自由にさせることで文化の発展につながること、家庭内の行為について規制することは現実的に困難であること、などの理由によるものです。

(2)「家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」

「家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」とは、強い個人的結合関係が及んでいる範囲と解されています。著作権審議会第5小委員会報告書(昭和56年)によれば、「人数的には家庭内に準ずることから通常は4〜5人程度であり、かつ、その者間の関係は家庭内に準ずる親密かつ閉鎖的な関係を有することが必要」とされます(同報告書U-1.「第三に」以下参照)。

よって、たとえば親密な特定少数の友人間や、研究のための小規模なグループについては本要件を満たしているといえます。しかし、たとえ少人数のグループであっても、その構成員の変更が自由である場合は、本要件を満たしていないことになります(同報告書)。

(3)「使用者」

「使用者」とは、私的複製によって作成された複製物を利用する本人のことです。このような限定が付されているのは、閉鎖的で限定された範囲内でのみ複製を許すという私的複製の趣旨を貫徹するためです。したがって、どこかの業者に頼んで小説をコピーしてもらうと、私的複製とはいえません。

ただし、本人と同一視できる者による複製は認められます。たとえば、親の言い付けに従って子どもが複製する場合や、社長の命令に従って秘書が複製する場合、身体障害者が家族に頼んで複製する場合などです。

2)具体例

(1)私的複製の例

コンサートを個人的に撮影することは私的複製といえます(著作権なるほど質問箱参照)。通常は「撮影禁止です」などとスタッフに言われるものですから、著作権法に反する行為に思われるかもしれませんが、著作権法と直接の関係はありません。ただ、法的にまったく問題がないというわけではないので(債務不履行による契約解除など)、撮影は控えたほうが無難です。

書店でカメラ付き携帯電話を使って雑誌の記事を撮影することも、私的複製といえます。この点、2003年に日本雑誌協会電気通信事業者協会 が「デジタル万引き」ということばを使用し始めましたが、著作権法上は私的複製であるうえに、「財物」を窃取しているわけではないので、窃盗罪(刑法235条)にも該当しません。

(2)私的複製ではない例

  • 会社の会議で資料として使うために、図面をコピーして配布する行為(東京地判昭和52.7.22「舞台装置設計図」事件)
  • 記事をスキャナーで取り込んでアップロードする行為
  • マンガやアニメのキャラクターを描いてアップロードする行為(5-2.2)(2)参照)
  • インターネット上で無償配布されているソフトウェアをアップロードする行為
  • 映画館での映画の撮影

映画館で上映されている劇場用映画を隠れて撮影する行為は著作権侵害にあたります。というのは、2007年8月に施行された「映画の盗撮の防止に関する法律」により、映画館における映画の録音・録画行為が私的複製から除外されることとなったからです(詳細はウィキペディアを参照)。

3)例外

私的複製にも例外が設けられています。以下のような場合です。

(1)自動複製機器による複製(30条1項1号)

自動複製機器というのは、ビデオテープレコーダやDVDレコーダなどのことです。30条1項1号の趣旨は、「家庭のような閉鎖的な私的領域における零細な複製を許容する趣旨を逸脱すると考えられる」からです(文化審議会著作権分科会報告書(平成19年)における1章1節別添)。

コンビニエンスストアに設置されているコピー機なども、この自動複製機器にあたるのですが、しばらくのあいだの暫定措置として、文献複写機は当該機器に含まないとされています(附則5条の2)。つまり、2008年現在のところ、コンビニでのコピーは違法ではありません。

(2)技術的保護手段の故意による回避(30条1項2号)

技術的保護手段の回避というのは、コピーガードを外す行為のことです。同項2号の趣旨は、「その技術的保護手段により制限されている複製が不可能であるという前提で著作権者等が市場に提供しているものであり、技術的保護手段を回避することによりこのような前提が否定され、著作権者等が予期しない複製が自由に、かつ、社会全体として大量に行われることを可能にすることは、著作権者等の経済的利益を著しく害するおそれがあると考えられる」からとされます(前掲報告書)。

では、DVDのリッピングは違法でしょうか?たとえば、パッケージに「複製はできません」というようなことが書かれてあるDVDをレンタルしてきて、DVD Decrypterというソフトを使用してコピーするわけです。これは30条2項でいう「技術的保護手段の回避」にあたるのでしょうか。

結論からいうと、あたりません。なぜなら、同項はコピーコントロールの回避を禁止した規定であるところ、DVDのリッピングはアクセスコントロールの回避(つまり視聴の回避)でしかないからです(文化審議会著作権分科会報告書(平成16年)におけるT章U2(2)、音楽配信メモDOS-V POWER REPORT、作花・詳解727〜728頁、田村・概説142〜143頁)。

4)要件

以上より、私的複製を行うための要件はつぎのようになります。

  1. 個人的に、または家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること
  2. 使用する本人が行うこと
  3. 公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器を用いないこと
  4. 技術的保護手段の回避を故意に行うものでないこと

5)私的録音録画補償金制度

(1)補償金制度の趣旨

デジタル方式の機器を用いて録音・録画する場合は、補償金を著作権者に支払う必要があります(30条2項)。これを私的録音録画補償金制度といいます。

高品質なデジタル方式の私的複製が盛んに行われるようになり、たとえ私的複製であっても、権利者の不利益が無視できないほど大きくなりました。そこで、1992(平成4)年の法改正により、MDやCD-R、CD-RW、DVD-RW、DVD-RAMなどのデジタルメディアを用いて録音、録画する場合には、利用者は一定の補償金を指定管理団体に支払うこととしました。

(2)補償金制度の構造

私たちがダビングするたびに補償金を権利者に支払うのは煩雑にすぎ、非現実的です。そこで、簡便な手続きとするべく、メーカーや輸入業者の協力により(104条の5)、先の商品価格にあらかじめ補償金が上乗せされています(104条の4第1項)。そして、補償金を受ける権利は、文化庁長官が指定する団体(指定管理団体)によってのみ行使することができるという、集中管理方式を導入しました(104条の2)。

録音の指定管理団体としては、私的録音補償金管理協会(sarah/サーラ)が、録画については私的録画補償金協会(SARVH/サーブ)がメーカーや輸入業者に対して補償金の請求をし、金銭を受領します。そして、当該指定管理団体から著作権管理団体へ受領した補償金の分配がなされ、当該著作権管理団体から権利者へ補償金の再分配が行われます。

デジタル方式による私的複製をしなかった人のために、補償金の返還に関する規定が設けられていますが(104条の4第2項)、事実上利用されていません(ITmedia)。