1)著作者人格権の定義

著作者人格権とは、著作者がその著作物に対して有する人格的利益の保護を目的とする権利の総称のことです。

著作権法は、著作者人格権として公表権(18条)、氏名表示権(19条)、同一性保持権(20条)を認めています。名誉声望侵害みなし(113条6項)については権利として認められているわけではありませんが、便宜上この章で解説します。

2)趣旨

著作権制度の萌芽は、出版社の経済的利益を確保することに始まり、著作権法は財産的保護の側面を中心として発展してきました。しかし、著作物は人の知的創作活動の発露ですから、人格的保護の側面をも考慮する必要があります。

すなわち、人は著作物を創作するうえで、自分の思想や感情を当該著作物に反映させます。そして、著作物に対して愛着を抱いたり、創作したことに誇りを持ったり、あるいは嫌悪を感じたりするわけです。こうして、創作活動を通じて著作者と著作物とは一体となります。

そこで、著作者人格権を認めることによって、著作物にかかる著作者の人格的・精神的利益を守っていく必要があります。著作権法は、著作者人格権として公表権(18条)、氏名表示権(19条)、同一性保持権(20条)などの権利を認め、名誉声望侵害みなし(113条6項)について規定を置いています。

3)著作者人格権の発生

著作者人格権はなんらの手続きを必要とせずに、著作物を創作するだけでただちに発生します(1-3-1.参照)。

4)著作者人格権の処分可能性

(1)一身専属性

著作者人格権は一身専属性を有しているため、譲渡できず(59条)、相続もできません(民法896条但書き)。著作者人格権が一身専属性を有しているのは、著作者人格権はまさに、著作物に対する著作者の心情に着目したものであり、その性質上、他人が行使することはできないからです。

ただし、著作者の死後も著作者人格権の侵害となる行為をすることはできません(60条)。そのため、死亡した著作者の配偶者や子、父母などは、著作者に代わって著作者人格権を行使できます(116条)。

著作者人格権を譲渡できないということは、譲渡契約が無効であることを意味します。そのため、著作者人格権の一身専属性は、経済的に困窮している著作者がその意に反してまで著作者人格権を譲渡してしまう事態を防ぎ、もって著作者を救済する機能を果たします(田村・概説410頁)。

(2)著作者人格権の不行使

著作者人格権は放棄することができるのか否か、換言すれば著作者人格権を行使しない旨の契約(著作者人格権の不行使契約)は有効か否かの争いがありますが、この点については、8-5.1)(2)で後述します。

5)人格権と著作者人格権

人格権とは、名誉権、プライバシー権、肖像権など、人格的利益に関係のある権利の総称のことをいいます。著作者人格権といった場合、著作者の人格的利益を保護する意味合いです。

人格権と著作者人格権との関係につき、両者は異質なものなのか(異質説)、それとも本質的には同質なものなのか(同質説)、ということにつき争いがあります。同質説ならば、原則として著作者人格権を放棄できないという結論を導きやすいといえますが、具体的な検討が必要です(8-5.1)(2)で後述)。