1)公表時起算主義

52〜54条には死亡時起算主義の例外が規定されています。いずれも著作物の公表後を起算点としているので、これを公表時起算主義といいます。保護期間の終期の算定には暦年主義が採用されています。

2)無名・変名の著作物

無名または変名の著作物については、著作者の死亡時期を把握することが困難であるため、その著作物の公表後50年のあいだ保護されます(52条)。

3)団体名義の著作物

法人などの団体が著作の名義を有する著作物については、法人に死亡という概念がなじまないため、公表後50年のあいだ保護されます(53条)。

4)映画の著作物

(1)映画著作物の保護期間

映画著作物の場合、その著作権は公表後70年を経過するまでのあいだ存続します(54条1項)。映画著作物の保護期間については、52条および53条の規定は適用されず、54条の規定のみが適用されることになります(同条3項)。

映画著作物の著作者は、全体的形成に創作的に関与した者ですが(16条、3-4.2)参照)、必ずしもだれが著作者か判然としない場合があるうえに、共同著作物と同様に考えると最後の死亡者を確定する必要性があり(51条2項)、煩雑な処理を要することになります。そこで、映画著作物では公表時起算主義が採用されました。

なお、映画著作物の保護期間は、2003(平成15)年の改正前までは「公表後50年」でした。映画著作物は公表時起算主義を採用しているために、死亡時起算主義を採用している他の著作物よりも保護期間が短く、このことを考慮して20年の延長がなされたものです。

(2)映画に利用されている原著作物

映画著作物の保護期間が満了してパブリック・ドメインとなっても、前節7-2.1)(1)で述べたとおり原著作物の保護期間はそれと別個のものであるために、原著作物についての権利を処理する必要があり、パブリック・ドメインとなった映画著作物の自由な利用を阻害してしまいます。

そこで、映画著作物の原著作物の著作権は、その映画著作物の利用に関しては、映画著作物の著作権とともに消滅します(54条2項)。たとえば、映画化された小説の作者が有している上映権(28条、22条)は、映画の利用に関する場合に限って、映画の保護期間が満了するのと同時に消滅します。

この点、小説の著作権自体が消滅するのではなく、映画の利用に関する限りにおいて消滅するにすぎません。したがって、同じ小説を利用して別の映画を制作する場合は、この要件を満たしていない以上、54条2項は適用されないことになります。

また、あくまでも映画著作物の原著作物だけが本条の適用を受けますので、それ以外の物、たとえば字幕、映画の音楽や美術のセットについては適用外です。

パブリック・ドメインDVDということばがあります。パブリック・ドメインDVDとは、著作権の保護期間が満了した映像作品をDVDに記録したもののことをいいます。手ごろな価格で購入できるところに特徴があります。
 パブリック・ドメインDVDに関し、日本では1953年問題とよばれるものがありました。1953年に公開された映画の著作物の著作権の保護期間が、2003年12月31日をもって満了するのか、それとも2023年12月31日をもって満了するのかという争いです。
 これは、映画の著作物の保護期間を「公表後50年」と定めていた54条を「公表後70年」に改正した新法が、1953年から50年経過後の2004年1月1日に施行されたこと、および改正法附則が2004年1月1日時点ですでに著作権が消滅している著作物については、新法の適用がないものと定めていたことに起因します(ウィキペディア参照)。
 1953年に公開された映画の著作物としては、『ローマの休日』や『シェーン』などがありますが、裁判所は2003年12月31日をもって保護期間は満了したと判断しました(それぞれ東京地決平成18.7.11、最判平成19.12.18)。つまり、両作品ともパブリック・ドメインとして、日本では自由に利用できるということが確定したわけです。

5)継続的刊行物・逐次刊行物

新聞や雑誌のように、冊、号、回を追って公表する著作物(継続的刊行物)については、それぞれが公表されたときとし、文学全集のように一部分ずつを逐次公表して完成する著作物(逐次刊行物)については、最終部分が公表されたときとします(56条1項)。

TVドラマの例でいえば、一話完結型のものが継続的刊行物、一話完結型でないものが逐次刊行物になります。またマンガの例でいえば、新聞に掲載されたポパイのマンガは継続的刊行物にあたるので、新聞に掲載されたマンガごとに保護期間が起算されることになります(東京地判平成4.3.18「ポパイ・パチンコ店立看板」事件)。

ただし、逐次刊行物については、保護期間を延長する意図で最終部分の公表をいたずらに遅らせることが考えられるため、直近の部分が3年以上公表されない場合は、すでに公表されたもののうち最終部分を起算点とします(同条2項)。

長期間にわたって公表される著作物の場合、いつを公表時として保護期間の起算点とするのか明確ではありません。そこで本条が設けられました。