1)非営利上演・演奏、上映、口述

「非営利かつ無料であれば大規模なものが頻繁に行われることは少なく、著作権者に大きな不利益を与えないと推察される」ため、著作権を制限して著作物の利用を認めています(田村・概説204頁)。

以下の要件を満たしている場合に限り、著作物の上演・演奏、上映、口述公に行うことができます(38条1項)。たとえば、学校の運動会で音楽を流す行為、公民館で行う上映会、趣味で行うギター演奏などがこれにあたります。

  1. 営利を目的としていないこと(非営利
  2. 聴衆または観衆から料金等を受けないこと(無料
  3. 出演者等に報酬が支払われないこと(無報酬
  4. 上演・演奏、上映、口述のいずれかであること(複製譲渡公衆送信は含まれない)
  5. すでに公表されている著作物であること
  6. 慣行があるときは出所を明示すること(48条1項3号)

(1)非営利目的

非営利目的が要件となっています。営利と非営利の区別は、直接的・間接的に営利に結びつくかどうかによって判断されます。したがって、営業・販売の一環として行われた場合は、たとえ無料のものであっても営利目的と判断されます。

たとえば、無料の試写会であったとしても、それが宣伝のためであるならば営利目的といえます。試写会が直接的に営利に結びつくわけではありませんが、間接的に営利に結びつくものだからです。

国立大学や私立大学の授業において、教授などが教科書を読み上げる行為も認められます。たしかに授業料は徴収していますが、それは教育の対価であって、著作物に関するものではないからです(作花・詳解329〜330頁)。

(2)無料・無報酬

さらに、無料・無報酬でなくてはいけません。本条1項の「料金」とは、いかなる名目であるかを問わず、著作物を公衆に提供・提示する対価として受け取るものをさします。報酬というのは、出演者などに対して、出演の対価として支払われるもの(つまり反対給付)のことです。

無報酬が要件とされているのは、出演者に報酬を支払う金銭的余裕があるのなら、著作権者に報酬を支払うべきだからとされています(田村・概説205頁)。

交通費や昼食代などの実費(手数料やもうけを含まない金額)が支払われても無報酬といえますが、実費を超える額が支払われれば報酬にあたります(作花・詳解329頁)。

(3)対象となる行為

38条1項が規定している行為は、上演・演奏、上映、口述に限られています。これらの行為についてのみ対象とされており、非営利の公衆送信については著作権の制限が及ばないことに注意が必要です。

たとえば、他人の作詞・作曲したものを非営利で演奏(歌唱)する行為は、本項により著作権侵害にあたりません。しかし、その様子を収録した動画をアップロードする場合は送信可能化権(23条)が関係するところ、本項ではこれを許容する文言がありません。よって、たとえ非営利であっても、著作権者の許諾なく動画をアップロードできないということです。

ただ、YouTubeは、JASRACと著作権使用料について協議を進めている段階です(INTERNET Watch、2008年3月時点でも継続中)。この協議がまとまれば、動画共有サイトの利用者はJASRACの管理楽曲について、さきのような動画を著作権者の許諾なく、無料でアップロードできるようになります。この点、ソニーの動画共有サービスであるeyeVio(アイビオ)では、すでにJASRACとの協議がまとまっています(SONYプレスリリース)。また、ニコニコ動画についても同様にJASRACとの協議がまとまっています(CNET Japan)。

動画共有サイトとJASRACとの協議によって許されているのは、@動画共有サイトの利用者が、AJASRACが管理する楽曲を「みずから」歌唱・演奏する行為を収録した動画を投稿することです。
 したがって、たとえばCDに収録されている音源を利用して、歌唱した動画を投稿することはできません。みずから演奏していないため、Aの要件を満たしていないからです。CDに収録されている音源に関しては、実演家(歌手・演奏家)やレコード製作者(レコード会社)の権利が発生しているところ、JASRACは彼らの権利を管理していないので、かってに許諾を与えることができないのです。

2)非営利伝達

以下の要件を満たしている場合に限り、著作物を公に伝達することができます(38条3項)。

  1. 受信装置を用いる場合
    1. 営利を目的としていないこと(非営利)
    2. 聴衆または観衆から料金を受けないこと(無料)
  2. 家庭用受信装置を用いる場合
    1. とくになし

ラーメン屋に置いてあるTVやラジオで放送を流す行為などは、家庭用受信装置を用いる場合に該当します。このような家庭用受信装置を用いる場合は、営利目的でもかまいません。

3)非営利貸与

1984(昭和59)年の法改正により、著作権者には貸与権が与えられることになりましたが、図書館は従来から公的なサービスとして本の貸し出しを行っていました。また、本の無償貸与により地域住民の生涯学習を振興する必要があります。

そこで貸与権を制限し、以下の要件を満たしている場合に限り、著作物(映画の著作物を除く)を公衆に貸与することができるものとしました(38条4項)。

  1. 営利を目的としていないこと(非営利
  2. 貸与を受ける者から料金を受けないこと(無料
  3. すでに公表されている著作物であること

公共図書館が行う本の貸与がこれにあたります。公共図書館が行うビデオの貸与は下記4)で述べる38条5項が適用されるため、本項では除外されます。なお、館内貸出しはそもそも「貸与」に該当しません(著作権法テキスト18頁)。

また、マンガ喫茶やネット喫茶で閲覧可能なマンガは、店側が外への持ち出しを認めていないので、やはり「貸与」とはいえず、有料でも問題ないというのが文化庁の見解です(著作権なるほど質問箱)。

4)非営利頒布

映画の著作物以外の物については上記3)のように措置されましたが、映画の著作物についてはその特殊性に鑑み、以下の要件を満たしている場合に限り頒布(貸与)することができるものとしました(38条5項)。

  1. 視聴覚資料を公衆の利用に供することを目的としていること
  2. 政令(著作権法施行令)で定める施設であること
  3. 営利を目的とする施設でないこと(非営利
  4. 貸与を受ける者から料金を受けないこと(無料
  5. すでに公表された映画の著作物であること
  6. 権利者に補償金を支払うこと

権利者の経済的利益、および市場に与える影響に鑑み、貸出すさいは著作権者に相当額の補償金を支払わねばいけません。日本図書館協会日本映像ソフト協会が図書館向けの貸出用ソフトに関する業務を行っており、補償金込みの販売価格で当該ソフトを入手できるようになっています。

図書館が行っている映像ソフトの館内貸出しは、貸与にあたりません(著作権なるほど質問箱)。

ここで注意が必要なのは、あくまでも政令で定められた施設だけが行為の主体ということです。企業の図書館などは政令で定められた施設ではないので、著作権者の許諾なしに映像ソフトを貸出すことはできません。