1)定義

(1)実演

実演とは、著作物を、演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠し、またはその他の方法により演ずることをいい、さらに、これらに類する行為で、著作物を演じなくとも芸能的な性質を有するものを含みます(2条1項3号)。

演奏、歌唱、朗読、ドラマや映画の撮影、芝居、アフレコ、落語などが実演の典型例です。「著作物を演じていなくても、芸能的な性質を有するもの」とは、たとえば、曲芸(アクロバット)、手品、ものまね、アイススケートショーなどのことです。ただし、フィギュアスケートの演技は競技であり、芸能的な性質を有していません。

(2)実演家

実演家とは、実演を行う者、実演を指揮する者、実演を演出する者をいいます(2条1項4号)。たとえば、演奏家、歌手、俳優、声優、指揮者、ダンサー、落語家、サーカス団員、手品師、演出家などのことです。実演家といえるためには、プロかアマチュアかということは関係がありません。だれでも実演家になりえます。

落語や漫才は、他人の創作による作品を演じる場合は実演家としてしか保護されませんが、自分で創作した作品を演じる場合は、その作品は言語の著作物(10条1項1号)ですので、上演権(22条)を有する著作権者としても保護されることになります。

2)種類

実演家には以下の権利が認められています。

  1. 実演家人格権
    1. 氏名表示権(90条の2)
    2. 同一性保持権(90条の3)
  2. 許諾権
    1. 録音・録画権(91条1項)
    2. 商業用レコードの放送・有線放送権(92条1項)
    3. 送信可能化権(92条の2)
    4. 譲渡権(95条の2)
    5. 商業用レコードの貸与権(95条の3)
  3. 二次使用料請求権・報酬請求権
    1. 商業用レコードの放送・有線放送にかかる二次使用料請求権(95条)
    2. 商業用レコードの貸与にかかる報酬請求権(95条の3)

2)実演家人格権

(1)総説

実演は創作そのものを行うわけではありませんが、創作に近い行為をします(準創作的行為)。たとえば歌手や俳優などは、どれだけ人を魅了できるかが実力のあるなしを決めるメルクマールです。実演家の人格は、実演に表出されるものだといえるでしょう。そこで、実演家には実演家人格権が認められています。

実演家人格権は一身専属性を有しており、譲渡することができず(101条の2)、相続もできません(民法896条但書き)。また、実演家の死後、実演を公衆に提供・提示する者は、実演家が生存していたならばその実演家人格権の侵害となるべき行為をすることができません(101条の3)。これは基本的に、著作者の死後の人格権(60条)と同じ扱いです。

一身専属性というのは、その人だけが権利を行使できる性質であるということです。民法896条但書きでは、被相続人の一身に専属したものは相続人が承継できないと定めていますので、実演家人格権を配偶者や子が相続することはできないということです。

(2)氏名表示権

氏名表示権は、実演家名を表示するかしないか、表示するとするとして、実名にするか変名にするかを決定する権利です(90条の2第1項)。たとえば、映画の主演俳優の氏名を表示せずに公開した場合は、氏名表示権の侵害となります。

ただし、実演の利用の目的および態様にてらして、実演家の利益を害するおそれがないとき、または公正な慣行に反しないときは、実演家名を省略することができます(同条3項)。

(3)同一性保持権

同一性保持権は、実演につき名誉声望を害するような改変をされない権利です(90条の3第1項)。著作者同一性保持権は、その意に反する改変を受けない権利であるのに対し(20条1項)、実演家の同一性保持権は、名誉声望を害するような改変を受けない権利です。

たとえば名誉声望を下げるような改変に対しては、実演家は同一性保持権を主張できるのですが、名誉声望を上げるような改変に対しては、同一性保持権を主張できません。これに対し、著作者の同一性保持権は、たとえ名誉声望を上げるような改変でも、それが意に反するものであるならば主張できます。

ただし、実演の性質や利用の目的・態様にてらして、やむをえないと認められる場合や、公正な慣行に反しない場合は例外です(90条の3第2項)。たとえば、ある映画を公開する場合に、上映時間との関係で一部のシーンをカットするような行為は、同一性保持権の侵害にあたりません。この点、著作者の同一性保持権の場合は、やむをえないと認められる場合に限って例外が規定されています(20条2項、4-4.4)(4)参照)。

なお、実演家には公表権が与えられていません。実演は著作物が公表されることを前提として行われるものだからです。また、著作隣接権者のなかで人格権が認められているのは、実演家だけです。

3)許諾権

(1)録音・録画権

ア 録音・録画の定義

実演をCDやDVD等に録音・録画する場合には実演家の許諾が必要になります(91条1項)。録音とは、音を物に固定したり、その固定物を増製することをいいます(2条1項13号)。また録画とは、影像を連続して物に固定したり、その固定物を増製することをいいます(同項14号)。

したがって、たとえばミュージカルを録音・録画して販売する場合、役者の許諾が必要となります(著作権者の許諾も必要)。他方、ミュージカルを写真に撮影して販売する場合、影像の連続性がないので録画にはあたらず、役者の許諾は不要です(ただし肖像権やパブリシティ権の処理は別途必要)。

イ ワンチャンス主義

実演家が映画の著作物に録音・録画することをいったん許諾した場合には、その映画の著作物の複製(映画のDVD化等)については、実演家の録音・録画権は及ばなくなります(91条2項)。これをワンチャンス主義といいます。

このワンチャンス主義にはさらに例外があり、たとえばサウンド・トラック(映画のフィルムにおける音声部分、または映画やアニメ、ゲームなどの音声のこと)に入っている演奏の実演を抽出して、サントラ盤CDを作成するような場合には適用されません(同項)。よって、実演家の許諾を得ずにそのような行為はできません。

ただし録音物であっても、「音をもっぱら影像とともに再生することを目的とするもの」である場合は、ワンチャンス主義が適用されます。

たとえば、映画俳優などが映画製作時に、録音・録画 されることをいったん許諾した場合には、著作権者たる映画製作会社はその映画を、出演俳優の許諾なしにDVD化することができます。
 この点、かりにTVドラマの出演俳優から録音・録画についての許諾を得ておらず、たんに放送についての許諾しか得ていない場合には、そのドラマ放送をDVD化するさいに出演俳優の許諾を得る必要があります。なぜなら、録音・録画の許諾がないため、ワンチャンス主義が適用されないからです。

(2)放送・有線放送権権

実演家は放送・有線放送権を専有しています(92条1項)。ただし、許諾を得て録音・録画された実演を放送・有線放送する場合は、実演家の放送・有線放送権は及びません(92条2項、ワンチャンス主義。サウンドトラックのような場合は原則どおり許諾が必要)。

また、放送事業者・有線放送事業者が商業用レコードを放送する場合には、実演家に二次使用料を支払う必要があります(95条)。なぜなら、TV放送局が実演の代わりにCDを使えば実演家の演奏する機会が減り、実演家の収入に影響を及ぼすからです。

この二次使用料の請求と分配は、実演家著作隣接権センター(CPRA、クプラ)が文化庁長官の指定を受けて行っています。また、二次使用料の額は、CPRAがNHK日本民間放送連盟(民放連、NAB)などと協議をして決定しています。

(3)送信可能化権

実演家は、その実演を送信可能化する権利を専有しています(92条の2)。ただし、前述したワンチャンス主義が適用されます(92条の2第2項。サウンド・トラックのような場合は原則どおり)。送信可能化権の内容については、著作権の送信可能化権をご覧ください。

(4)譲渡権

実演家は、その実演をその録音物又は録画物の譲渡により公衆に提供する権利を専有しています(95条の2)。ただし、ワンチャンス主義が適用されます(95条の2第2項。サウンド・トラックのような場合は原則どおり)。権利の内容は譲渡権をご覧ください。

(5)貸与権

実演家は、商業用レコードを貸与により公衆に提供する権利を専有しています(95条の3第1項)。発売後1年を経過した商業用レコードについては貸与権は及びませんが、この場合、相当な額の報酬の支払が必要となります(95条の3第2項および3項。報酬請求権)。貸与権の内容については貸与権をご覧ください。

放送・有線放送権もそうですが、貸与権はあくまでも商業用レコードについてのみ認められていることに留意してください。このような規定が設けられたのは、レコード(CD)を自由に貸与したり、放送で利用したりということになると、演奏家をわざわざ現場に呼ばなくても音楽CDで代替できるがために、実演家が経済的に困窮するおそれがあるからです。

なお、商業用レコードとは、市販の目的をもって製作されるレコードの複製物をいい(2条1項7号)、レコードとは、物に音を固定したものをいいます(同項5号)。

たとえば、歌が録音されたCDをレンタルする場合には歌手や演奏家の許諾が必要になります(ほかに、後述するレコード製作者や、著作権者たる作詞家・作曲家・編曲者の許諾も必要)。貸与権は商業用レコードのみに及ぶ権利であり、DVDのレンタルについては、実演家の貸与権は問題となりません(つまり俳優などには貸与権がない)。ただし、DVDレンタルであっても、著作権者の貸与権は問題になります。
 許諾、報酬の請求、分配も、上述したCPRAが行っています。ただし、日本コンパクトディスク・ビデオレンタル商業組合(CDV-J)がレンタル店とCPRAとのあいだに介在しており、レンタル店に対する報酬の請求と、CPRAに対する支払をしています。

4)二次使用料請求権・報酬請求権

上記3)(2)で述べたとおり、実演家の生出演の機会が減少してしまうことになるため(機会的失業)、放送事業者・有線放送事業者が商業用レコードを放送する場合には、実演家に二次使用料を支払う必要があります(95条)。

また、実演家は商業用レコードにつき貸与権を有していますが(95条の3第1項)、発売後1年を経過すると消滅します(95条の3第2項・3項)。以後は、貸与報酬請求権として権利が認められるにすぎません。

商業用レコードの発売直後の公衆への貸与は商業用レコードの売り上げに影響を及ぼす可能性があり、実演家の経済的利益に打撃を与える恐れがあります。他方で、一定期間が経過したならばそのような恐れが薄れると考えられますし、レンタル店との利害調整を考慮する必要があります。そこで、本条が規定されたのです。