氏名表示権とは、著作物の公表にさいし、著作者の名を表示するのかしないのか、また表示するとして実名にするのか変名(ペンネームなど)にするのか決定する権利のことをいいます(19条)。
著作者は著作物に対して愛着や誇りを持ち、自己の名を表示したいと考えるでしょう。あるいは逆に、なんらかの理由で名を表示したくない、変名にしておきたいと考えることもあります。そこで、こういった人格的利益を保護するために氏名表示権を認めたのです。
二次的著作物は原著作物の創作的表現を再製したものであり、原著作者の人格的利益を保護する必要があるので、二次的著作物に対しても氏名表示権は及びます(19条1項第2文)。したがって、たとえば小説を原作品とした映画を制作した場合、映画中に小説の作者のクレジットを入れなくてはいけません。
なお、公表権や同一性保持権においては著作者の意思が権利侵害の成否にかかっているのに対し(18条2項「同意したものと推定する」、20条1項「意に反して」)、氏名表示権についてはそのような規定がありません。これは、著作者でない者を著作者とすることは、たとえ著作者の同意があっても許されないと考えられるからです(121条)。
著作物の利用の目的および態様に照らし、著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないときは、公正な慣行に反しないかぎり、省略することができます(19条3項)。これは、著作物の円滑な利用・流通を阻害しないようにするためです。
たとえば、CDショップでBGMとして音楽CDを流す場合などは、著作者たる作曲家の名前を示す必要がありません。しかし、雑誌に掲載した写真について著作者名を省略した行為は19条3項に該当しない、すなわち氏名表示権の侵害にあたるとされた事例があります(東京地判平成5.1.25「月刊誌ブランカ写真掲載」事件)。