1)映画著作物の著作者

映画の著作物の著作者は、制作、監督、演出、撮影、美術などを担当して、映画著作物全体的形成に創作的に寄与した者です(16条)。本条は、著作物を創作した者が著作者であるという規定(2条1項2号、創作主義3-1.参照)の例外です。

映画著作物の制作には大勢の人が関与します。そのため、全員が著作者になるとすると、著作者の判別が難しくなって権利行使が困難になり、映画著作物の流通・利用の阻害となります。そこで、映画著作物の全体的形成に創作的に寄与した者だけを著作者としたのです。

ここでいう「制作」とはプロデューサーを、「演出」とはディレクターを、「監督」とは撮影監督を、「美術」とは美術監督または特殊撮影の監督をそれぞれさしています。また、「全体的形成に創作的に寄与した者」とは、映画著作物に対して一貫したイメージを持ちながら、創作活動の全体にわたって関与し、参画した者(モダン・オーサー)のことをいいます。

この点、映画著作物において翻案され、または複製された小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者(クラシカル・オーサー)は、映画著作物の著作者ではないので(同条)、注意が必要です。ただし、後述する28条や26条2項によって、彼らには映画著作物(ないしそれに関連するもの)につき著作権が認められています。

なお、職務著作(15条)の規定が適用される場合は、著作者は映画製作会社となります(16条但書き)。また、映画著作物に出演している俳優は通常、映画著作物につき全体的形成に寄与した者とはいえず、あくまでも著作隣接権者として保護を受けることになります。

原作者や脚本家(シナリオライター)は映画著作物の著作者ではなく、映画著作物の原作の著作者です。たとえば、Aさんの小説をもとにB会社が映画を制作した場合、Aさんは小説の著作者ではあるのですが、映画の著作者ではないのです。これが、「映画著作物において翻案され、または複製された小説…の著作物の著作者は、映画著作物の著作者ではない」ということです。
 また、映画著作物の音楽を作った著作者も、映画の著作物の著作者ではありません。ほかには、助監督やカメラ助手も著作者ではありません。彼らは、映画著作物の全体的形成に創作的に寄与したとはいえないからです。
 ここで注意が必要なのは、映画に関しては著作者と著作権者が一致しないということです(5-3-1.3)で後述)。

2)映画著作物の著作権者

映画著作物の著作者は、上記1)で述べたとおり16条により決せられることになります。しかし、映画著作物の著作権は、その著作者が映画製作者に対して当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、当該映画製作者に帰属することになります(29条1項)。

この「約束」というのは、映画著作物の制作に参加する意思があったかどうかということを意味します。通常はこのような約束がありますから、同規定により映画会社が著作権者となるのが一般的です。

本条が設けられたのは、従来から映画製作者と映画著作物の著作者との契約で、映画製作者に著作権が委ねられるケースが多かったこと、また劇場用映画が巨額の費用を投じられるものであること、さらには映画著作物の場合は著作者になりうる者が多数存在し、全員に著作権の行使を認めるのは映画著作物の円滑な利用を阻害すること、などの理由によるものです。

映画の著作物の場合、ほかの著作物とは異なる特別な扱いがされています。3-1.で述べたとおり、原則として著作者は著作物を創作した者ですが(2条1項2号)、映画の著作物の場合は例外で、映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者が著作者となるわけです(16条)。
 では、著作者がそのまま著作権者かというとそうではなくて、著作者が映画製作者に対して、当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているならば、映画製作者が著作権者となるよということなのです(29条1項)。映画の著作物の場合は、著作者と著作権者が一致しないのが一般的です。
 なお、「製作」とは、資金を提供したり企画・立案するなどして、作品全体を統括することをいい(映画会社、広告代理店、出版社、TV局など)、他方、「制作」とは、作品を実際に作ることをいいます(制作プロダクション、制作会社)。しかし、条文も判例も、厳密には区別していないようです。