1)「思想または感情を」の意義

著作物といえるためには、思想または感情を表現したものではなくてはなりません。なぜなら、そうでなくては知的活動の営為ないし精神的活動の所産とはいえないからです。この要件により、事実やデータは著作物から除外されます(10条2項)。

かりに、本来はだれであっても利用できる事実やデータに独占を認めてしまうと、表現活動上の大きな弊害になってしまうでしょう(名古屋地判平成12.10.18「自動車部品データ」事件)。そのためにも、事実やデータは著作物から除外する必要があります。

ただし、事実であっても、それを発表するなどして、いったん外部に表現した場合は、後述する創作性が認められる限り思想または感情を表した著作物といえます(東京地判平成10.11.27「壁の世紀」事件参照)。事実の表現に精神的な活動がみられるからです。

著作物というのは多様性の世界です。自分の作った作品が他人の作った作品とは違うからこそ、その作品には価値があるのです。換言すれば、当該作品に著作者の精神的なもの、すなわち考えや気持ちが乗り移っているからこそ、著作権法により作品を保護してやる必要性があるのです。したがって、客観的なものである事実やデータを著作権法で保護する必要性はないということです。

2)具体例

たとえば、バスや列車の時刻表、料金表などは、事実やデータでしかないので著作物ではありません。では電話帳の場合はどうかというと、ハローページは事実やデータの集まりなので著作物ではないのです。しかし、タウンページは分類のしかたに創意工夫が見られるので、著作物として保護されます(東京地判平成12.3.17「NTTタウンページデータベース」事件)。

新聞の人事往来、事故、火事、死亡広告欄などの記事については、事実を伝えているだけなので、これらの部分は著作物ではありません。しかし、これら以外の記事については、どのような事実をどの程度どのように配置するのか、また、論理展開や文章などの表現方法につき創作性がある表現物ですので(東京地判平成6.2.18参照)、著作物といえます。

3)補足

なお、著作権法でいうところの事実とは、普遍的事実ないし絶対的真理としての事実ではなく、創作者により事実として示されているものと客観的に判断できるものであるとされます(中山・著作権法38頁)。