1)「公正な利用」の意味

まず「利用」とは、権利者の有している権利に基づいて、または抵触するかたちで著作物などを用いる行為をいいます。たとえば、著作者は複製権(21条)を有しており、この権利に基づいて自己の著作物を複製することができます。また、著作者ではない者に不正コピーされるなどして、複製権に抵触するかたちで違法に自己の著作物を用いられることがあります。これらの行為をまとめて「利用」といいます。

そして、「著作物等の公正な利用」とは、他人が創作した著作物などを、その他人の権利を制限するかたちで適法に利用することをいいます。たとえば、借りてきた音楽CDを個人的にダビングする行為や、公共図書館が行っている図書の貸出しなどがあたります。前者は他人の複製権という権利を制限していますし、後者は他人の貸与権という権利を制限しています。

「利用」という概念は「使用」とは区別して用いられることがあります。使用というのは、著作物などを見たり、読んだり、聞いたりする行為、すなわち人間の五感に基づいて物にアクセスする行為をさしています。たとえば、新聞を読む行為やDVDを観覧する行為が「使用」です。「使用」には著作権は及びません(例外は113条2項)。
 このように「使用」は著作権と直接の関係がない概念であるのに対し、「利用」は著作権に直接関係した概念です。すなわち、21〜28条に著作権の種類が規定されていますが(5-1.で後述)、これらの利用形態のことをさして「利用」とよんでいるのです。私的にコピーするのも「利用」ですし、違法にコピーするのも「利用」です。適法行為か否かは問題ではなく、著作権法で定められている利用形態のことをさして利用とよんでいるわけです。

2)「公正な利用」の趣旨

私たちの文化は著作者などの権利を制限することで成り立っている側面があります。かりに彼らの権利を制限しなければ、利用者の自由は不当に制限され、ひいては表現活動に悪影響を及ぼすでしょう。

さきの例でいえば、音楽CDをダビングできない、公共図書館が本を無償で貸出すこともできないということになってしまいます。よって、文化の発展という観点から、他人にも著作物の利用を認める必要があります。

もっとも、他人が額に汗して創作した作品を、だれもが自由に利用(フリーライド)できるとすれば、著作者の創作意欲は減退し、新たな創作品は登場しにくくなるでしょう。そのため逆に、文化の発展を阻害することになりかねません。

そこで、法は一定の場合に限り、他人の著作物などを利用できるものとしています。つまり、他人が創作した著作物などについては、あらゆる利用が認められるのではなく、法定されている「公正な」利用のみが認められているのです。具体的にどのような利用形態が公正なものとして法定されているのかは、6.著作権の制限で後述します。

3)備考

なお、「著作物など」と表記したのは、公正な利用が認められているのは著作物のみならず、実演、レコード、放送・有線放送といったものも含まれているからです(102条)。現時点ではよくわからないかもしれませんが、著作隣接権を学習したあとに再度、ここに戻ってきてください。