1. 引用(32条1項) A
  2. 行政の広報資料等の転載(32条第2項) B-
  3. 時事問題に関する論説の転載等(39条) B
  4. 政治上の演説等の利用(40条) B-
  5. 行政機関情報公開法等による開示のための利用(42条の2) C

1)引用

(1)定義

引用(32条)とは、紹介、参照、諭評その他の目的で、著作物中に他人の著作物を採録することをいいます(最判昭和55.3.28「パロディ・モンタージュ」事件)。

32条1項には引用目的として、報道、批評、研究などがあげられていますが、ほかには自説の補強・紹介、参照、論評などがあげられます。

適法な引用は著作権者に無断で行うことができます。したがって、「無断引用を禁止します」という表現や、「この引用には著作権者の許可を得ています」などという表現は、適切ではありません。

(2)趣旨

新たに創作活動を行うさい、既存の著作物の表現を利用しなければいけない場合があります。しかし、その一方で、自由な引用を認めてしまうと法が著作権者に翻案権などを認めた趣旨を骨抜きにしてしまいます(27条、28条)。そこで、所定の要件を具備する引用行為についてのみ、著作権を制限することとしました。

他人の著作物の一部を自分の著作物のなかで取り上げるという行為は、広く行われています。説得力のある批判をするためには、他人の著作物を正確に引いてこなければいけないことがあるでしょう。あるいは、他人の名言などを紹介というかたちで利用することもあります。そこで引用の必要性が認められます。
 しかし、無制限な引用を認めてしまうと、著作権を認めた意味がなくなってしまうので、一定の要件を満たしている場合についてだけ、著作権の効力が及ばないとしたのです。

(3)要件

32条1項や判例によれば、適法な引用といえるためには以下の要件を満たしている必要があります。1〜3および8が条文上の要件です。それ以外は、判例が当該要件を具体的に示したものです。

  1. 引用元が公表された著作物であること
  2. 公正な慣行に合致していること
  3. 正当な範囲内で行われていること
  4. 本文と引用部分が明らかに区別できること(明瞭区分性
  5. 質的にも量的にも、引用先が「主」、引用部分が「従」の関係にあること(主従関係
  6. 著作物を引用する必然性があること
  7. 引用される側の著作者人格権を侵害するものでないこと
  8. 出所を明示すること(48条1項1号。複製以外は同項3号によりその慣行があるとき)
ア 明瞭区分性

引用方法としては、引用されるものが言語の著作物である場合にはカギカッコでくくらなくてはいけません。このような方法は、公正な慣行に合致していると考えられるからです。

引用されるものが言語の著作物の場合は、たとえば「ぜひ結婚しなさい。よい妻を持てば幸せになれる。悪い妻を持てば私のように哲学者になれる」というように、「」でくくらなければいけません。

イ 主従関係

質的にも量的にも、引用先が「主」、引用部分が「従」の関係にあることが必要です。すなわち、「引用著作物全体の中で主体性を保持し、被引用著作物が引用著作物の内容を補足説明し、あるいはその例証、参考資料を提供するなど引用著作物に対し付従的な性質を有しているにすぎないと認められるかどうか」ということです(東京高判昭和60.10.17「レオナール・フジタ絵画複製」事件)。

引用として利用された著作物に独立した鑑賞性がある場合、主従関係が認められるかについては争いがあります。前掲「レオナール・フジタ絵画複製」事件や東京地判平成12.2.29「プロサッカー選手中田英寿伝記」事件では否定されましたが、東京地判平成12.4.25「脱ゴーマズニム宣言」事件では肯定されました。

質的には自分の著作物のほうが引用される他人の著作物よりも高い存在価値を持っている必要があります(加戸・逐条講義235頁)。量については、引用した部分の多寡だけによって適否を判断するわけではありません。引用として利用するものが絵画や写真、俳句などの場合、それらの性質上、全部の引用が可能となる場合があります。
 ただし、それが鑑賞可能なものである場合、適法な引用といえるかどうかにつき、主従性との関係で争いがあるのです。個別・具体的な判断が必要なところですが、一般論でいえば、著作物として独立した鑑賞ができる場合、それを鑑賞性の備えていないかたちで引用することができるのにしなかったというのなら、著作権保護の観点から適法な引用とはいえないでしょう。

ウ 必然性

必然性の要件は、自分の著作物を創作するにあたり、他人の著作物を引用するだけの合理的必要性がなければならないということです。

他人の著作物の名言ばかりを集めて著作物を創作した場合は、当該著作物は他人の著作物によって構成されたものでしかないので、引用とはいえません(作花・詳解307頁)。

エ 著作者人格権への配慮

著作者人格権を侵害しないようにしなくてはならないという要件に言及したのは、前掲「パロディ・モンタージュ事件」判決です。しかし、この要件については踏襲していない判例が多く、適法引用の要件とすべきかは争いがあるところです。

2)行政の広報資料等の転載

国、地方公共団体、独立行政法人などが一般に周知させるために作成し、その著作の名義で公表した広報資料、調査統計資料、報告書その他これに類する著作物は、転載禁止の表示がないかぎり、転載することができます(32条2項)。

ほかに、白書やPR資料なども含まれます。白書は13条2号にいう「国(中略)が発する告示、訓令、通達その他これらに類するもの」にあたらず、したがって著作物として保護されるものであるということに注意してください。

3)時事問題に関する論説の転載等

新聞や雑誌に掲載している時事問題に関する論説については、これを禁止する旨の表示がない限り、新聞や雑誌に転載したり、放送・有線放送することができます(39条)。

これは時事の論説が、マスコミが社会に対して発信する主張であり、広く世に知らしめるためのものであるため認められた規定です(中山・著作権法280頁)。

ただし本条は、時事の論説が広く利用されることがマスコミの意図に合致するとの考慮によるものですので、利用禁止の表示があれば利用はできません。

なお、利用が認められる対象は、雑誌、新聞、放送・有線放送に限定されていることに注意が必要です。

4)政治上の演説等の利用

公開して行われた政治上の演説・陳述、裁判手続における公開の陳述は、1人のものを編集して利用する場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができます(40条1項)。

また、公の機関における公開の演説・陳述は、報道の目的上正当と認められる場合には報道新聞などに掲載することができるほか(同2項)、放送・有線放送し、受信装置を用いて公に伝達することができます(同3項)。

5)行政機関情報公開法等による開示のための利用

行政機関が情報公開法などに基づき情報を開示する場合、必要と認められる限度において著作物を複製することが認められます(42条の2)。