1)定義

著作権者は、その映画の著作物を複製物により頒布する権利を専有しています(26条)。頒布権は映画の著作物にのみ認められています。

ここで頒布とは、有償であるか無償であるかを問わず、複製物を公衆に譲渡または貸与することをいいます(2条1項19号)。また、公衆に譲渡または貸与しない場合であっても、公衆に提示することを目的として、特定少数の者に対し映画の著作物を譲渡または貸与することも、頒布に含まれます(2条1項19号後段)。

ビデオレンタル店がDVDソフトをレンタルできているのは、お店がソフト購入時に、メーカーに対して著作権使用料を支払っているからです。この使用料は、著作権管理団体を通じて各権利者に分配されています。

2)趣旨

劇場用映画の製作会社は、慣行として存在していた配給制度によってフィルムをコントロールし、多大な製作費(投下資本)を回収していました。そこで、映画界のこういった実態を法的に制度化すべく、1970(昭和45)年に現行の著作権法が制定されるさいに、頒布権が規定されたのです。

頒布権は強力な権利であり、たとえば本を著作権者の許諾を得ずに公衆に売買することは著作権法上問題がないのに対し、劇場用映画のフィルム(以下「プリント」と称す)につき同じことをすれば、頒布権侵害になります。したがって、頒布権は流通をコントロールすることができる権利といえます。

ただし、今日においては立法当時における状況が一変しており、映画著作物には劇場用映画だけではなく、ビデオソフトゲームソフトも含まれるというのが判例・通説です。これらには配給制度が存在していないため、劇場用映画と同じような強力な頒布権を認めるべき合理的な根拠があるのかという議論があります(下記5)参照)。

まず映画製作会社から配給会社がプリント(原画の複製物)や、上映権を譲り受けます(東宝、東映、松竹などは兼配給)。つぎに、配給会社は同じプリントを興行会社(映画館のこと。東宝、東映、松竹などは兼興行)に貸し渡します(配給)。そして、興行会社は最初に全国9大都市(東京、大阪など)にあるロードショー館(封切館)で映画を公開し(ロードショー)、それから一定期間後、二番館で映画を公開します(ムーブオーバー)。そして一定期間後、同じようにして三番館にて映画を公開し、しばらくして最後に、名画座で映画を公開するいう流れになっていました。
 これら一連の流通形態を配給制度といい、配給制度によってプリントをコントロールすることで、映画製作会社は多大な製作費を回収していたのです。そこで、昭和45年の著作権法改正において認められたのが頒布権です。
 かりに頒布権を認めなければ、プリントの転売や、映画館どうしでの貸し借りが行われます。そうすると、映画製作会社が上映をコントロールできなくなってしまい、たとえば人気映画と上映期間が重なるなどして、製作費が回収できないおそれがあります。つまり、頒布権というのは配給制度を前提とした権利だといえます。

3)頒布権者

頒布権を行使できるのは、映画著作物の原著作物の著作者(28条、26条1項)、映画著作物の著作者(16条、26条1項)、および映画著作物の著作権者(29条、26条1項)のほか、映画著作物において複製されている著作物の著作者(26条2項)となっています。

このへんはわかりにくいかもしれません。まず、「映画著作物の原著作物の著作者」というのは、たとえば映画のもとになった小説の作家(小説家)をさしています。この小説家は、あとで翻案権(27条)のところで説明しますが、映画著作物の著作権者と同様の権利を有しています(28条)。したがって、映画著作物の著作権者が頒布権を有している以上、小説家も同様に頒布権を有していることになります(26条1項)。
 つぎに、映画著作物の著作者は、16条により「全体的形成に創作的に寄与した者」ですから、監督などがこれにあたることになります(3-4.1)参照)。したがって、監督などは映画著作物の著作者として頒布権を有しています(26条1項)。
 さらに、映画製作会社などは29条によって映画著作物の著作権者となるのが通常ですから(3-4.2)参照)、やはり頒布権を有しています(26条1項)。
 そして最後に、映画に収録されている音楽や美術などを作った者が頒布権を有することになります(26条2項)。この点、彼らは映画著作物の著作者ではありませんが(16条)、26条2項により頒布権を有しているということに留意してください。つまり、同項にいう「映画著作物において複製されている著作物の著作者」というのはわかりにくい表現ですが、まさに音楽や美術セットを作った者をさしており、彼らがその音楽や美術セットにつき頒布権を有しているわけです。

4)頒布権の内容

頒布権の具体的内容としては、頒布先、頒布場所、頒布期間などの指定・限定があげられます。たとえば、プリントの譲受人を指定したり、東京だけでの頒布を認めたり、1ヶ月だけ頒布を認めたり、というようなことを頒布権者は決めることができます。

5)中古ゲームと頒布権

中古ゲームは、新品のゲームソフトよりも安い価格で入手できます。そこでユーザーとしては、新品のゲームソフトではなく中古のゲームソフトを買いたいという場合もあるでしょう。このような事情を背景として、中古ゲーム市場は発展してきました。

しかし、メーカー側には、中古ゲームソフトの売り上げの利益は入ってきません。そこで、中古ゲームに対して頒布権を及ぼして、販売を差止めできないでしょうか。これが認められれば、メーカーの許諾のない中古ゲームソフトの販売は著作権侵害となります。

まず、@頒布権は映画の著作物にのみ認められている権利であるため、そもそもゲームソフトは映画の著作物といえるのか、Aゲームソフトが映画の著作物であるとしても、配給制度のないゲームソフトに頒布権が認められるのか、Bまた認められるとしても、配給制度がないがゆえに頒布権は第一譲渡後に消尽(しょうじん)するのではないか、ということが問題となります。

この点、最高裁は、ゲームソフトを映画の著作物と認めたうえで頒布権も与えられていると解釈したものの、「公衆に提示することを目的としない家庭用テレビゲーム機に用いられる映画の著作物の複製物の譲渡」については、「当該著作物の複製物を公衆に譲渡する権利は、いったん適法に譲渡されたことにより、その目的を達成したものとして消尽し、もはや著作権の効力は、当該複製物を公衆に再譲渡する行為には及ばない」とし、中古ゲームの販売は著作権侵害とはいえないと判断しました(最判平成14.4.25「中古ゲームソフト」事件判決)。

権利の消尽とは、著作物を複製物など有体物の形態で譲渡した場合に、それ以降の譲渡についての権利の効力が及ばなくなることをいいます。

たとえば、劇場用映画のプリントがA社→B社→C社へと無断で譲渡されていった場合には、頒布権者はプリントの返還をC社に請求することができます(民法703条。9-3.で後述)。これが、頒布権は譲渡によっても消尽しないということであり、頒布権を考えるうえで従来からの解釈でした。
 では、ゲームソフトはどうでしょうか。ゲームソフトも映画の著作物と考えて、メーカーは頒布権を行使できるでしょうか。
 この点、ゲームソフトはインタラクティブ性があり、しかも配給制度の存在を前提として規定された頒布権の立法趣旨に鑑みると、映画の著作物にゲームソフトを含めるのは無理があるようにみえます(@)。しかし、ゲームソフトが映画の著作物であることについてはほぼ争いがないといってもよいでしょう(3-2.7)参照)。
 そこでつぎに問題になるのが、ゲームソフトが映画の著作物ならば、映画の著作物に頒布権が認められている以上、ゲームソフトにも頒布権が認められることになるのかという点です(A)。ここでもやはり、配給制度がないゲームソフトについて、映画の著作物と同様に考えてよいのかがポイントとなります。
 考え方としては、(1)ゲームソフトは映画の著作物なのだから頒布権も当然認められるというものと、(2)ゲームソフトにも頒布権は認められるけれども、第一譲渡後に頒布権は消尽するというもの、(3)ゲームソフトは映画の著作物だけれども、頒布権は認められないというものがあります。
 結論として最高裁は、@およびAを肯定したうえで、Bすなわち(2)の考えを採用しました。たとえば、A(メーカー)→B(小売店)→C(消費者)→D(中古店)→E(消費者)というようにプレイステーションのゲームソフトが譲渡された場合、A→Bの譲渡が適法になされていたものならば、その時点で頒布権が消滅するため、たとえCがDにゲームを売ったとしても、またDがEにゲームを売っても、Aは著作権侵害を主張できないということです。

6)頒布権の制限

非営利で行う頒布については頒布権が及びませんので(38条5項)、図書館は著作権者の許諾なく映像ソフトを貸出すことができます(6-2-2.4)で後述)。