1)序

著作権者は、その著作物を複製する権利を専有します(21条)。複製権は、著作権の萌芽とともに誕生した歴史のある権利です。

従来より、多くの著作物は複製することで流通してきました。たとえば、本や楽譜などは、原稿が印刷技術によって大量に複製されて出版され、世の中に出回っています。また音楽CDにしても同じで、原盤を大量生産により複製したものを、私たちがお店で購入しているのです。

このように、私たちが手にしている商品の多くは、オリジナルをコピーしたものであり、複製が著作物の流通を支えている重要な手段であることがわかります。したがって、複製権はまさに著作権の中心的存在であることをまずは理解しましょう。

そして今日では、サーバにファイルをアップロードする行為や、サーバからファイルをダウンロードする行為、音楽CDをハードディスクドライブに複製する行為も増えてきました。これらコンピュータによる自動的な作業も、複製のカテゴリに属するものであり、質の高い複製品を容易に作成できる点に特徴があります。

従来、複製は高度な技術を要し、設備を用意するのはお金のかかることでした。しかし、現代ではいま示した例のとおり、だれもが手軽に、かつ品質の高い複製をすることができるようになり、複製は私たち個人の趣味・娯楽を支えている存在であるともいえます。

出版技術も複製です。出版はそれこそ何百年もまえから行われていることであり、いかに複製権の歴史が古いかが想像できるでしょう。また、旧著作権法が1条1項において、「文書演述図画建築彫刻模型写真演奏歌唱其の他文芸学術若は美術(音楽を含む以下之に同じ)の範囲に属する著作物の著作者は其の著作物を複製するの権利を専有す」とし、著作物のあらゆる利用を「複製」としていたことからも、複製権の意義が理解できるはずです。

2)複製の定義

(1)条文上の定義

複製とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により、有形的に再製することをいいます(2条1項15号)。有形的とは、著作物が媒体に固定されることをいい、再製とは、元の創作的な表現物と同一のものを作ることをいいます。

「著作物」といえるためには記録媒体に固定されている必要はないのですが(1-3-4.1)参照)、「複製」といえるためには著作物が紙に書き留められたり、録画されるなどして固定されている必要があります。たとえば街頭で他人の歌をたんに歌唱する行為は、複製ではありません。後述する演奏にあたります。

また、表現物と同じものを作ることが複製ですので、非表現物であるアイディアをマネする行為は複製とはいえません(2-1-3.参照)。たとえば、男性と女性が出会って恋に落ち、さまざまな試練を乗り越えつつ愛をはぐくむという発想はアイディアであり、このアイディアをもとにして恋愛小説を執筆しても、複製ではありません。

(2)判例上の定義

判例は、「著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいう」としています(最判昭和53.9.7「ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー」事件)。前者は依拠性、後者は類似性とよばれています。

修正・増減がない場合はもちろん、多少の修正・増減を加えて再製した場合でも、既存の著作物の内容および形式を覚知できる部分があれば複製といえます(最判平成9.7.17「ポパイ・ネクタイ」事件、東京地判平成11.9.28「煮豆売り」事件)。

たとえば、マンガのキャラクターを手で描き、スキャナーでPCに取り込んで、著作権者に無断でアップロードした場合、たとえ絵が稚拙であっても、当該マンガのキャラクターの本質的特徴を感得できるものならば複製権侵害になります(後述する送信可能化権も同時に侵害)。

他方、既存の著作物に依拠し、創作的な修正・増減を加えることで、元の著作物の本質的特徴を感得できる新たな著作物を創作した場合は、後述する翻案にあたります(最判平成13.6.28「江差追分」事件参照)。

一般的に、複製は完全コピーのことをイメージするかもしれません(いわゆる転写)。しかし、複製といえる範囲は常識で考える範囲よりも広く、一部分を少し変形したくらいでは複製の概念を出ることはないのです。マンガやアニメの非公認のファンサイトに掲載してあるキャラクターの似顔絵は、複製権または翻案権を侵害しているケースであり、著作権侵害といえます。

3)複製の具体例

(1)典型例

以下のような行為が複製にあたります。私的複製も複製に含まれますが、その場合は著作権の効力が制限されるため、問題ありません(30条、6-2-1.で後述)。

  • 出版
  • コピー機によるコピー
  • アップロード、ダウンロード
  • ハードディスクドライブへの保存
  • スキャナーを用いてする、記事や画像のPCへの取り込み
  • CDやDVDのダビング・リッピング
  • インストール
  • バックアップ
  • プリントアウト(印刷)
  • MPEGからDIVXなどへの、ファイル形式の変換・圧縮(エンコード)
  • MIDI化
  • 転載
  • 脚本など演劇用の著作物の上演、放送・有線放送の録音・録画(2条1項15号イ)
  • 建築の図面に従って建築物を完成(同号ロ)
  • カメラによる平面的な著作物の撮影
  • 手書きによる模写
  • 講演、ショー、コンサート、テレビ番組などの録音・録画

(2)問題になる例

プログラムのリバース・エンジニアリング(逆アセンブル、逆コンパイル)や、RAMへの一時記憶、Googleなどの検索サイトにおけるキャッシュについては、複製に該当するのか争いがありますが、その社会的重要性から結論としては、該当しないとする見解が有力です。

なお、Webサイトに掲載されている「リンク禁止」「無断リンク禁止」「直リン禁止」などの文言は、著作権的に意味がありません(WEBコンテンツと知的財産15頁著作権なるほど質問箱CRIC)。なぜなら、リンクはWebページの所在を示しているにすぎないからです。

ただし、サイト内にフレームを使用して他人のサイトをリンクにより表示させる行為は、著作権侵害になります(アメリカのトータル・ニュース事件が有名)。どのような権利の侵害かになるのかについては争いがあります。

4)複製権の制限

複製権が制限される場合はさまざまですが一例として、私的複製(30条、6-2-2.で後述)や、保守・修理等のための一時的複製(47条の3、6-2.4)で後述)の場合には、著作権者の許諾なくこれらの行為をすることができます。