1)定義

編集著作物とは、編集物(データベースを除く)で、その素材の選択または配列によって創作性を有するもののことをいいます(12条1項)。

2)編集著作物における素材

ここでいう素材は、条文上なんらの限定が付されておらず、著作物であるか否かを問いません。たとえば、文学全集における各文学作品はもちろんのこと、英単語集における英単語など、非著作物である事実やデータも素材となりえます

「素材の」選択または配列に創作性が認められるものが編集著作物であるため、何が素材といえるのかは、当該編集物の目的、性質、内容に基づいた個別具体的な判断が必要です。この点、柱、ノンブル(ページ番号)、ツメの態様、文字の大きさ、書体、使用された罫(けい)、約物の形状は、素材となりません(東京地判平成10.5.29「知恵蔵」事件)。

レイアウトについては、年度版用語辞典の素材となりえないとした判決がある一方で(前掲「知恵蔵」事件)、用字苑の素材となりうるとした判決があります(名古屋地判昭和62.3.18「用字苑」事件)。なお、レイアウト自体は抽象的なアイディアであり、著作物ではありません(前掲「知恵蔵」事件)。

3)編集著作物における創作性

編集著作物における創作性とは、従前みられないような選択または配列の方法を採用するといった高度なものを意味するのではなく、素材の選択または配列になんらかのかたちで人間の創作活動の成果が反映されていることでたります(東京地判平成8.9.27「四谷大塚試験問題集」事件、2-1-2.参照)。

素材が著作物である場合は、一定の編集方針に従い、その素材の個性に着目して編集がなされます。ここでは、どのような個性を持った素材を選択して配列するかという点につき、もっとも創作性が認められ、素材を入れ替えてしまえば別個の編集著作物となります。

他方、素材が事実やデータなどの場合は、素材に個性がありません。ここでは、どのような編集方針に基づいて編集がなされたのかという点が、もっとも創作性が認められる部分となります。ただし、編集方針自体はアイディアでしかなく、著作権上保護されません(2-1-3.参照)。あくまでも、編集方針に従ってこれに合致する素材を選択し、または配列するという、具体的な表現が保護される点に注意が必要です(東京地判平成16.3.30「ケイコとマナブ」事件)。

4)具体例

たとえば、タウンページや(東京地判平成12.3.17「タウンページデータベース」事件)、辞典(東京高判昭和30.11.14「時事英語用語辞典」事件)、字典(前掲「用字苑」事件)、新聞(東京地判平成5.8.30「ウォールストリート・ジャーナル」事件)、試験問題集(前掲「四谷大塚試験問題集」事件)などが編集著作物にあたります。

他方、サッカー選手の名前を五十音順に並べても、編集著作物とはいえません。素材の選択と配列に創作性がないからです。また、松本清張の小説の映画化作品の題名、封切り年、制作会社名、監督名、脚本作成者名、おもな出演者名などの一覧表を作成しても、従来どおりの表現物といえ、創作性がないため編集著作物ではありません(東京地判平成11.2.25「松本清張映画化作品リスト」事件)。

5)補足

編集著作物の全体を利用する場合は、編集著作物の著作権者の許諾のほか、収録されている個々の素材の著作権者の許諾も得なければなりません(12条2項)。編集著作権として保護されるのは編集著作物であり、素材とは別個の著作物であるからです。