1)支分権の意味

著作者の権利は、著作者人格権と著作財産権に大別できます(1-1.参照)。そして、これらの権利はさらに、同一性保持権や複製権などに細分化されています(5-1.で後述)。細分化された権利は支分権と呼ばれており、著作権というのはこれら支分権の集まりで成り立っています。つまり、著作権というのは権利の束といえるわけです。

著作権が権利の束であるということは、ある支分権だけを他人に譲渡(61条)したり、著作物の特定の利用形態だけを許諾(63条)できることを意味しています。たとえば動画を作成した場合、その動画を上映する権利だけを他人に売渡すことができますし、その動画をコピーしたりアップロードしたりする行為だけを他人に認めつつも、動画に改変を加える行為を禁止することもできるということです。



2)著作物の多様な利用形態

著作物の利用形態というのは、多岐にわたります。伝統的には出版を含む複製が、また現代的には公衆送信(主としてアップロードのこと)などの利用形態があげられ、ほかにも上図のような利用形態が考えられます。現行著作権法は、このような多種多様な利用形態をあらかじめ規定しておくことで法的安定性を保ち、予測可能性を担保しているのです。

ただし、著作物の利用形態というのは、技術の発達や、国際的な社会情勢の変化などに応じて、時代により変遷するものです。たとえば、公衆送信権頒布権譲渡権貸与権といった支分権は、著作権制度が誕生した当初は存在していなかったものであり、いまあげたような事情があったがゆえに、現代において新たに規定された権利なのです。したがって、今後も著作物の新たな利用形態が発生した場合は、それに応じて支分権が新設されることになります。

法的安定性・予測可能性というのは、どのような行為をしたときにどのような結果になるのか、事前に予測できることをいいます。たとえば、著作権者に無断で音楽ファイルをアップロードすれば、あとで著作権者に訴えられるかもしれない、警察に逮捕されるかもしれないといったことがあらかじめ理解できます。
 そうすると、自分に不利益な結果が及ばないようにして、人は慎重に行動でき、かつ安心して生活できるわけです。ビジネスの世界も同じですね。契約を締結した場合における自社の利益やリスクを事前に把握して、最大限の利益が出るように行動するわけです。
 著作物の利用形態は、今後も増えていくことが予想されます。2008年現在において、もっとも新しい情報伝達手段はインターネットですが、おそらく今後50年以内に、インターネットに代わる次世代の情報伝達手段が登場し、普及するでしょう。その技術がどのようなものになるのかはわかりませんが、新たな支分権を認めるように関係諸団体が動き、実際になんらかの支分権が新設されることだけは、まちがいありません。