「著作者等」とは、著作物を創作する者である著作者(作詞家や作曲家など)、および著作物を伝達する者である著作隣接権者(歌手やレコード会社など。9-1.で後述)をさしています。「著作者等の権利の保護を図り」とは、彼らの有している権利を保護するということです(5.著作権および9.著作隣接権者で後述)。
ただし、著作者および著作隣接権者が有している権利は、文化の発展という目的のため法によって人工的に与えられたものです。よって、著作権は立法的・政策的に制限されることになります。このような制約は、法が著作権の制限や著作権の保護期間、および著作隣接権の制限・保護期間を規定していることから伺えます。
著作権制度が人工的なものであるということは、著作権が大幅に制限されることもありうるということです。また、著作権は絶対不可侵の権利ではないのですから、「著作権を制限する立法は不当だ」という主張は成り立たないのです。これは表現の自由(憲法21条)についても同じです。
著作者の権利が明文によって規定されていることには重要な意義があります。なぜなら、18世紀に至るまで著作権制度は存在せず、15世紀半ばになって著作権制度の萌芽ともいえるべき出版特許制度が生まれたものの、そこでは著作者は保護されず、もっぱら国王から特許を与えられた出版者だけが保護されるにすぎなかったという歴史があるからです。
すなわち、15世紀半ば、グーテンベルクの発明とされる活版印刷技術の普及により、ヨーロッパの人々はさまざまな書物(聖書や古典など)を以前よりも安価に入手することが可能となりました。とりわけ当時はルネサンス期であり、古典に対する需要は相当のものであったため、出版者としても散在する資料の収集や統合・整理に多大な資金と労力、時間を投じて書物を出版していたのです。
しかし、すぐに海賊版が出現するようになりました。出版者がしたような労力をいっさいせず、しかも出版者の本よりも安い価格で販売する者が現れたのです。こうなると、出版者は売行きが阻害され、出版に要した費用の回収さえもままならなくなりました。そこで、出版者は国王に経済的利益の独占的保護を求めたところ、国王としても書物を検閲して言論を統制する必要性があったために、両者の目的が合致し、ここに出版特許制度が誕生することになったのです。
このように、著作権制度の萌芽ともいうべき出版特許制度により、当初は出版者の利益だけが保護され、著作者の利益は考慮されていなかったのですが、18世紀に入ると精神的所有権論の影響で、著作者の利益も保護されるようになりました。
精神的所有権論とは、精神的労働によって著作物を創作した著作者は、当該著作物につき一種の所有権を有しており、したがって国家に保護されるべきだとする考えのことをいいます。同理論の登場で、「著作者の権利」というものが強く意識されるようになったのです。
そして、精神的所有権論は国ごとに登場のしかたや時期に違いがあるものの(詳細は半田・概説12〜16頁)、1789年のフランス革命による同理論の定着によって、出版者の経済的利益を独占的に保障していた出版特許制度は18世紀後半には克服され、著作者の利益を保護する近代的な著作権制度がヨーロッパ各国において誕生するに至ったのです。
18世紀後半に誕生した著作権制度は、現在でも世界各国の著作権制度の基礎となっています。したがって、著作者の利益の保護を著作権法の目的として規定することには、歴史的に大きな意義を有しているといえるのです。
著作者の権利を明文で初めて規定した最初の法律は、イギリスにおいて1709年に制定された、いわゆる「アン女王法」です。このアン女王法は、世界最初の近代的な著作権法であり、著作権史至上、画期的意義を有する法律とされます(半田・概説13頁)。
俳優、歌手、レコード会社、放送事業者などは、著作隣接権者として保護されます。彼らが有している著作隣接権は、20世紀に入ってから認められたものであり、条約として実演家等保護条約(ローマ条約)があります。